閑話7−8【姉の想い、妹うの野望】
もちろんそれは、真壁秋のことばかりではなく、姉として、かつての共に歩んでいたD &Dとの関係改善と言う意味でも言っている。今の魔法スキルとして突き抜けた存在となってしまっているひどく傾いてしまったD &Wの事を危惧して言っているのだ。
妹はそう取えなかった。
その一言で、椿は悟る。
ああ、そうか、姉はあの『真壁秋』を欲しがっているんだ。
じゃあ、手に入れよう
姉、牡丹が気に入っているのだから、妹の私が気に入らない筈がない。
二人で共有のものにすればいい。
姉は私が大好きだから喜ぶ。なるほどね、理想の形だわ、とほくそ笑んだ。
そう思って、あの日、椿にしては珍しく姉以外の他人に興味を示してあの戦いを、真壁秋と、葉山静流の頂上決戦を見に行った。
そして、そこで目撃してしまう。
魔法スキルを知るものとして、あの『僥倖』を目撃してしまう。
まさに、現在もなお魔法スキルを持つものが辿り着くことができない高き頂点。
その姿がそこにはあった。
彼は詠唱などしていなかった。
導言もない。
まさに魔導師の理想。
思念のみ、まるで神の行う奇跡のように魔法を発動させていた。
そこに呼び出されたのは『宇宙開闢の光』
始まりの爆発。
誰もたどり着けなかった最後にして最大にして最強の魔法。
これだけの魔法スキルを持つ私達姉妹ですらその端も見えてはいない。
だから椿は思う。
真壁秋は、私達と同じ魔導師なのだ、と。
同時に直接戦闘に特化してはいるものの、あれは魔導師。きっとそうに違いない。
でなければ、あの力は矛盾する、理解できない。
彼の、真壁秋のあの光が未だ解析できない。
このダンジョンの中にいて、最強最大の魔導師と自負しながら、あの『堕ちた魔神』大賢者角田涼にすら感じなかった嫉妬を彼には感じた。
まるで目眩をするほどの嫉妬を内蔵を全て吐き出しそうな程の嫉妬を憧れと感じた。
それに姉によって、一つの結論が既に導き出されている。
あれは、私たちの物だからだ。
それは決定事情なのだ。
なぜなら私と姉がそう思っているからだ。
それに、もしクロスクロスが邪魔をすると言うなら消してしまえばいい。それは椿にとって簡単な事で、割と軽くて問題にするまでも無い事でもあった。
妹は笑う。
「楽しみね、牡丹」
とその心中を吐露した。
そう言われて姉は思う、ああ、またこの妹はおかしな事を考えている。よかったD &Wに帰って来て。この妹の暴走を止める事ができるのは姉である私のみだ。近くで、『ダメなものはダメ』と告げよう。そう思っていた。
大丈夫、私が椿を正してあげる。
同じ顔の美少女は互いに微笑む。
意識が共有してではなく、限りになく解離してた結論とも言える答えを持って、同じ表情を作って同じ顔で微笑んでいた。
「面倒くせえなあ、だったらよ、こっちに入って来たら一回叩き潰せば良いだろ、強いとか言っても、所詮は中階層のダンジョンウォーカーだろ?」
鮫島の言葉に、
「じゃあ、お前が行けよ、責任持って行ってくれ、そちらの方がいいな、真壁秋にとって誰が敵で誰が味方なのかハッキリとした方が彼もわかりやすいだろ」
『チトセ商会』の小々島 佳織が言う。
「腰抜けどもが、お前も、ここで商売できなくなるかもしれねーんだぞ」
その一言に小々島は笑う。
「けっ! 何を笑ってうやがる」
吐き捨てる様に言う鮫島に、
「いや、俺達は、彼と上手くやってゆくさ、彼にだって深階層のドロップアイテムには興味がある筈だ、元々、あの茉薙とだって上手くやって来た我々だからな」
「早速日和やがった」
「我々は君たちと違って『覇権』なんてものは争わんよ、その辺は『鍵師』と同じ立場だ、そうだよなツギ」
「ああ、アギは悪いい奴じゃあねえよ、少なぐともに鮫島ほど乱暴者でもないしな」
と言って笑った。
「ふざけてんなよ、この前も茉薙を相手に大立ち回りしたばっかだろ、あれのどこがおとなしい奴なんだよ」
「い、いや、いい奴だが、おとなじい奴とは言っでない」
その後、話し合いというより、それぞれが皆、自分の都合を主張し始めて、この会場に飛び回る『真壁秋』と言うボールを誰も受け取る者が無く、辛うじて彼を知る者は敢えて多くを語らずにその行く末を見守っている様でもあった。