閑話7−7【此花椿は思案する】
此花椿が、組織を追い出した連中には、真壁秋とも面識のあるものもいる。
例を挙げると、クロスクロスにいた九首とかもそうだ。もっとも彼の場合、怒り狂う椿に痛い目にあわされる前に逃げ出したと言った方が正しく、そして、それで一時とは言え牡丹が身を寄せていたクロスクロスに仲良く世話になっていたのは間抜けな話ではある。
結局のところが、姉の牡丹は組織を重んじて、妹の椿にとってはその組織は姉が不在ならどうでも良いと思うところが大きく、組織など何人いなくなっても全く意に返すことなく牡丹にとって都合の悪い者、つまりは椿にとっては邪悪な者を次々に追い出して行って、一時期はD &Wを解体してゆくのでは、とも噂されていたほどの反牡丹勢力への追い込みっぷりは、この後一つのこの組織におけるあり方のように伝えられるようになる。
そして、椿は言う。
「あと、葉山ももらうからね、あの前衛二人をツートップに置くつもりよ、彼らならまあ、私たちの前衛としてふさわしいからね」
現在、このダンジョンで最強と呼び声高いその彼らと、その後方に控える魔法スキル特化の集団。
ある意味、理想の形かもしれない。
その進言に物申す者もいる。
「いや、ちょっと待ってよ、お姉さんを返したんだから、彼の権利は僕も欲しいんんだけど、僕ら結構仲良しなんだよ」
と言うのは八瀬である。
姉の牡丹は、一度、本意ではないが確かにクロスクロスに身をおいていた。この時の彼女はかつて身をおいていたD &Wの事は隠して、どこにでもいるヒーラーとして参加していたのだが、ちょっと前に、ギルドの幹部が行方不明になる事件を切っ掛けに椿に所在を確認されて連れ戻された。
この時、妹である椿は、D &W復帰を断る牡丹に対して、『わかった、もうちょっと減らすね、牡丹の事を少しでも悪く思うやつは、それっぽい奴は全部潰すから、それとも皆殺しにするかなあ』の一言で、D &Wへの復帰を決めた。もちろん、それは組織を慮っての事ではない、これ以上ほおって置くと、この妹は何をしでかすかわからないから、妹の事をよく知る姉としては放置できる段階ではない事を知ったのだ。
まさに、椿が牡丹にを想う気持ちは、仲の良い姉妹という形を借りた狂気に近い。
それに行動力が伴うから、余計にたちが悪い。
「一応断ったけど、あなた達にそれを選択する権利なんてあるわけないじゃない、まあ、一応はお礼は言って置くけどね」
と八瀬にそんな事を言った。
そうなのだ。組織を離れて、そしてこのダンジョンで人数の上ではそれなりの人員を確保するものの、未だ最弱の組織と言われるクロスクロスの中にいた牡丹は、意外にも楽しそうだったのである。だから、傷ついているであろう姉を、そんな楽しそうにしている姉を見たとき、ホッとする椿でもあった。
同時に軽い嫉妬も覚えた。
姉が、自分の事が大好きな牡丹が、あの禁忌である導言、『流星雨』を使ってまで助けた『真壁秋』と言う存在。
あの時、保健室で、開口一番に、心配して駆けつける妹である自分ではなく、その彼に向けた言葉。
「彼は無事ですか?」
大好きであるはずの妹を求めなかった、姉の言葉。
その一言による衝撃は椿の心に突き刺さる。
それは椿の頭を一瞬にして沸点にして、冷静さを消失させる。
今、ここ、ギルドの保健室であるにも関わらず、真壁秋を抹殺してしまおうと想うにいたってしまうが、流石にそれは止まる、何よりここには『凶竜』工藤真希がいる。彼女に魔法スキルは届かない。100%の魔法抵抗される。事実上魔法を失った魔導師と思う存分力を振るう工藤真希とでは戦いの形にならなく踏み潰されて終わりだ。
流石に、ここで規格外の力に対抗するのは無謀だ。
そんな妹の心境を知ってか知らずか、姉は言う。
「やっぱり、力のある前衛がいると、私たち魔法使いは安心よ椿、詠唱や導言に集中できる環境は、守られているというあの安心感はいいものだったわ」
と言う。