閑話7−5【魔法スキル筆頭、此花椿の主著】
そのトップの椿がきちんと手を上げて発言の許可を問う。
もちろん、ここには黙る自由もあれば発言する自由もある。誰もが椿に注視した。
「じゃあ、いいわね、はっきり言うわ、うちは『彼』が深階層へ足を踏み入れた暁には、積極的に獲得に乗り出すわ、欲しいわ、あの子」
その意見に、会場は騒めく。
すると今度はD &Dの辰野 斗真は慌てていた。
「ちょっと待ってくれ、それは『W』の方の意見か? それとも君個人の意見なのか? どちらにせよ勝手なことはしないでくれ、もし彼を取り組むと言うなら、それは君たちの出身母体でもある我らD &Dの判断も必要だろう?」
しかし、その言葉に椿は笑う。せせら笑う。
「私たちはもう完全に袂を分かっているでしょ? 今更何をあなた達に言うことがあるのよ?」
かつてD &Dは、このダンジョンでギルドに次いで二番目にできた組織と呼べる団体である。その中には、様々なダンジョンウォーカーが存在して、目的は皆、ダンジョンにおいての存在能力、つまりは生き残ってゆく力、それはモンスターと向き合うための戦闘能力のあり方であり、自身の研鑽に他ならない。それでも数年間はぎこちない無いながらも様々なスキル、スタイル、そして考え方の違うダンジョンウォーカー達も一応の協力の形をとって団体として、上手くまとまっていたのであるが、10年を数える前に、その目的は共するが、方法と手段が違えて者達が現れ始める。
このダンジョンにあって、様々なスキルの中に沈み位置して、異色な存在。
魔法スキルである。
それが、この団体から、D &Wを産み、分離して行った。
つまり、スキル系大の中において、魔法スキルのみが切り離されてしまったのである。と言うより、魔法スキルに特化するダンジョンウォーカーのみが一つに纏まって母体であるD &Dから脱した事になる。
その様子を知る者達はD&Wが、まるで足手まといを切り離すようだったと言われている。
このことは、意識や知識、そして良くある方向性の違いという事に止まらず、何より『魔法』と言う名のスキルの得意性にある。
深階層までたどり着くことの実力のある魔法スキルを持つ者、D &Wでは『魔導師』と呼んでいる者達にもなると、その内容は、中階層までの魔法スキルとは異なってくるものがある。
その威力もそうだ。
そして、何より他のスキルとは違う有用性もある。
それは、魔法の発動言語である『導言』の共有と研鑽である。
ある条件を満たす事によって、魔法スキルの導言は学習して学ぶことが出来るのである。この試みは、過去何度か試行されていたが、ここ最近、二人の天才魔導師が完全大系化に成功したのである。
それが、ここにいる椿と牡丹。此花姉妹である。
特に、姉である牡丹はモンスターだけが使う導言すらも紐解き自身に大系化し、文章化し共有する事も出来る。
このダンジョンに新たに現れたタイプの魔法使いとも言えるのである。
それに対して現在、D &Dの構成員は、探索向き(マッパーみたいな存在)直接戦闘向きのスキルをもつ者のみで構成され、その代表である
辰野 斗真は、『名も無き王』とも呼ばれる、騎士と呼ばれるスキルの統合体系の位置から、その強靭な戦闘力とカリスマから現在『君主』と呼ばれるようになって久しい。