第52話【5円玉の殺意に反応できない僕】
すっごい睨まれた。
間違いなく君島は僕を敵として見ている。あの時の遭遇感が僕の中へとやって来る。
……でも弱いなあ、ギザ10よりも弱い、多分5円玉と同じくらいの遭遇感覚。
まあ、遭遇感はないけど、モンスターじゃないから。でも、きっと僕にとっては彼はそんな感じ。
僕に向けられて来る5円玉ほどの殺意、この状況で僕は彼を明らかに敵と認識したんだ。
「いえ、でもね」
僕と君島との張り詰めた空気を割って入るように、その後を告げない言葉で冴木さんが入って来た。
でもって、あからさまに怒りをあらわにする君島君さんを制して、なんか深く考え込む。
僕を納得させるっていうより、君島くんさんを抑えるっていう方が近い、でも納得させるって感じでなくてあくまで落とし所を考えている。
物の見事に僕と君島って人たちの間に入って板挟みってやつになっている。
「こんなガキ、話しても仕方ないですよ、少し痛い目見せてやらないと!」
いや、ダメでしょ、大学2年生が中学2年生女子に固執して中学2年生男子をボコっちゃ。
「なんだよ、その目は! 舐めてるのか!」
だってさ、怒られちゃったよ。
「やめなさい、君島くん!」
冴木さんは、さっきよりも大きな声で君島を諌めた。
いつの間にか飛びかかって来そうな勢いで立ち上がっていた君島は、僕を睨みつけたまま座る。
そして、この状況で冴木さんは言った。
「ごめんなさい、今、ここの、札幌の札雷館は半分はこんな状況なの」
つまり、道場の人間が、半分くらいこの手の人間に占められていると言うことなのかな? 全体数がわからないから総数にしてなんとも言えないけど、ちょっと驚いて見た僕だった。
っていうか大丈夫なのその道場、なんか剣道の道場っていうか、ヒャッハーな人たちの集まりみたなイメージでこんな荒ぶる方のジャイアンな奴ばかりって事は精神修行とかないのかな? あ、いいのか、未熟だから、道場通っているんだな。じゃあいいか。半分くらい精神的に問題がある人がいても、むしろ更生する為に通っているんだな、札雷館。
君島くんさんには未だ修行の効果は現れていないって事で良いのかな?
思わず、慈しむ目で見ちゃったけどさ、このまま、冴木さんが現れなかったら、僕は普通にシメられた訳なんだね。で、かなりの高確率、その場合、ボコられてた訳か。
で、冴木さんと他2名は、そうならないようにしたい訳なんだね。できれば事を丸く収めるために、春夏さんが道場に少しでも顔を出すよう、なんとか丸く収めたかったんだね。
そう考えると、ちょっと彼女の立場にも同情してしまう僕だった。
こいつを言葉で説得させるってのは、ウーパールーパーに話しかけているのとさして変わらないよね。メキシコサラマンダーだもんね。
普通に話を聞ける僕の方に話を振って来るのも物凄く納得できてしまう。
「なんか、大変そうですね」
と、思わず、彼女の立場に同情してしまった。
「本当にごめんなさい、でもこのままでは真壁くんを…なんて人たちもいてね」
その小声になった…中には、『亡き者』とか『消してしまおう』とかって言葉が入るんですね、わかります。
可哀想になあ冴木さん、いつもこう言う苦労って良識のある方に負担が行くよね。