閑話7−4【それそれの思惑】
膠着する会議室。
この人の数の上での沈黙は不気味以外のなにものでも無い。
自分の発言がこれからの立場すら左右してしまう可能性がある以上、迂闊な事も言い出せない。
つまり、発言には今の所、自身の、いや代表する組織へのリスクへと直結してしまう。
当然、誰もが、他の者の発言を待つようなそんな形になる。
質問や問題の提起について誰一人口火を切るものはいない。
ただ、これだけ集うダンジョンウォーカーの中、妙に緊張した息遣いと、その窮屈な息苦しさからだろうか、時折、咳払いのような音が聞こえて来るにとどまっていた。
しかし、この緊張を打ち破る者がいる。
誰も何も言わない事を確認した上で、漁夫の利ならぬ、ダンジョンウォーカーの利を虎視眈々と狙うのは、クロスクロスの副長、鉾咲八瀬であった。
「いやいや、皆さん、この集まりは何でしたっけ? もしかして、合コンか何かかな? みんな黙って本命ちゃん、狙ってるのかなあ? 笑える」
ふざけた物言いだが、それと言って自身の立場や意識を吐露する内容でもなく、静まる湖面に適当な大きさの石を投げ込み、湖面に立つ波紋を眺めているような、彼女らしい一言であった。そして、頭の悪い犬は直ぐに噛み付く。
「ふざけるなよ、お前達の様な中階層程度のグループにこの集いに参加する資格などはねーんだからな!」
と言うのは、深階層狩猟集団、『黒き刃集』の鮫島 修平である。
その大きな体に乗った強面の顔、その目がジロリと八瀬を睨む。
「ああそれは、ごめんなさい、鮫島さん、怖いなあ、さすが黒の猟団長!」
現在、鮫島の『黒の集刃』は、かつて黒の猟団と呼ばれた時分のその呼び名を禁忌としていた。つまり他人から言われて相当に面白くない。
多月蒼によって分断されたかつての組織は弱体化し、皮肉にも今回この議題に上がろうとしているある最強最悪のダンジョンウォーカー、真壁秋の行動の末に黒の猟団から多月一族が消えて再び昔の組織となりつつあると言う、鮫島にしてみれば、まさに不本意で激しく痒みどころに手が届かなくて、体が変な体勢になって腸がねじ切れそうになるくらいの怒りともどかしさに身を焦がしそうな立場でもある。
八瀬の言った一言はまさにそんな鮫島の気持ちを煽る一言で、それはもちろん狙って言ってる一言でもあり、それに気がつかない鮫島でも無い。
「くそったれが」
と吐き捨てるように言う鮫島に、やれやれと言ったジェスチャーで答える八瀬は完全にこの流れを支配しようとしていた。
静まり返る、深階層でも所謂選りすぐりのダンジョンウォーカーの面々を前にほくそ笑む八瀬。
そしてそんな空気を無視するものもいた。
「いいかしら?」
そう声を出したのは、此花椿である。
真白い、そしてどこか花を意識させている様で神々しくも禍々しいローブを羽織り、頭には見たこともない宝石が散りばめられた小さなティアラを乗せている。どちらもこのダンジョンのアイテムでその性能は伝説伝承の装備と言って良い内容だ。
そして、ダンジョン内でも一二を争う美少女。
もちろんそれは姉妹で争っている訳で、彼女としては一を姉に譲るのは吝かではない。
D &W、このダンジョンの中でもっとも大きな魔法使いを集う魔法集団。