閑話7−3【規格外の戦歴とその経緯】
もちろん、その事についてのお互いの身の振り方についても興味がある。と言うより進退問題として関わってくる。
そんな人物がいよいよこの深階層にやってくるのだ。
その人物の名は『真壁秋』。
浅階層の悪鬼とも呼ばれ、今やこの深階層にとって新しい風というより何もかも吹き飛ばす暴風雨の様な扱いになっている。
彼の行ってきた事を一連であげるなら、
新人ダンジョンウォーカーであるにも関わらす深階層のメンツでも手を出せないギルドとの全面対決。
黒の猟団の壊滅。愚王とのタイマン勝負。
あの工藤真希との対峙。
ハイエイシェントラミアとの迎合。
力づくでの巨人の撃退(通常不可侵)。
ゴブリン1000体斬り。
ここにいる怒羅欣の北藤臣との死闘。
現在も続く怒羅欣のメンバーの挑戦と悉く退け、そして最近は数度に渡るこのダンジョンで最強と誰もが認める葉山静流と数度に渡る戦闘の末に完全勝利。
今現在、真壁秋は最強最悪のダンジョンウォーカーとしての名声は、既にこの深階層でも鳴り響いている。
そんな彼が現実問題としていよいよこの深階層にやってくるのである。
この所、この深階層では小競り合いすらも無く、それぞれの団体が長らく時を重ねて沈殿しいい感じに住み分けができていたので、正に予期せぬ嵐の到来に皆戦々恐々としていた。
だからこそ警戒して誰も何も言い出さなかった。
今ここに存在するのは互いに牽制する意識や弱みを見せまいとする警戒感と疑心暗鬼、ともかく会議にも似たこの集会ははじめから凍てついていた。
中階層で行われた、事実上の頂上決戦。
今後、この界隈でも語り継がれるであろう戦いを演じ、勝利した『真壁秋』
おそらくは人一人の力では無く、この深階層のダンジョンウォーカーの力を総結してようやく対抗できると言われていた、あの『瀑布の刃』葉山静流をたった一人で退けてしまった。
宣言は無い、しかし事実上その瞬間、真壁秋はこのダンジョンで最強となったのだ。
それはここにいる誰もがあの場所で見ていた。
ギルドが管理する会場で、ここにいる全員が目撃していた。
ちなみに、鮫島以外は皆、『ギルド公認各組織ご優待券』によるS席チケットを購入していたので、余す事なく全て見ることが出来た。チケット代はちょっと高めだったが、この出費はダンジョンの行く末を占う意味でも仕方がないとも言えた。
おかげで、真壁秋のデタラメな強さを目の当たりにしてしまう。
あの葉山静流にしても、ここにいる誰もが手を出すことが出来る段階、位置にはなかった。しかし、彼の場合はそれの遥か上を行っていたのだ。
そこにいたる程度のこのダンジョンの事情を知る者なら、彼の事をある程度は知っていた。最後の扉の先に行った者なら聞いている。
あれがダンジョンに全てを委ねられたスキル。
現在確認されているスキルはもちろん、誰もたどり着けなかった各系統の頂上を既に持つスキル、そして、更にそれらを組み合わせ、生み出すことが出来る正に無限のスキル。
『全知全能』
それだけでもあり得ないのに、それを操る体には、あの『殲滅の凶歌』血が、その技が怒涛の様に流れている。
揺るぐことがない最強が、これからダンジョンの上からやって来る。
D &Dの上位者を事も無く、怪我もしない様に気を使って瞬殺した奴がやって来る。
多分、ここにいる全員は、この事実を、あの力をどの様に受け止めていいのかもわからないでいるのである。