閑話7−1【深階層代表者会議】
ひんやりと涼しい風が吹いていた。
外では味わえない、ここならではの独特の風。
北海道ダンジョンの中に吹く風は、概ね下から上に向かうと言われている。
ここ深階層に至ってもそれは同じで、その風の方向で空気が抜けてゆく方向を知ることができるので、ダンジョンの外に向かって行けると言う者もいるのであるが、風が抜けて行けるからと言って、人が歩けるとは限らないので、結局は来た道を行くのが一番安全と言われている。
何よりこの風は、ダンジョンの最下層のどこからか、洗練な空気を人が生きるために最適な新鮮な空気を運んでくれているとも言われている。
まるで、どこかの最新建築の機械空調よりも効率的にまた的確な換気をしているとも言われている。
そして、気温は下に行けば行くほど下がってゆくというのが通説とされている。
一般に、ギルド、つまり、学生間連絡組織と呼ばれる、このダンジョンの事実上の管理を任されている団体の情報では、平均してダンジョンに入るとマイナス1度、中階層でマイナス1度、そしてさらに深階層ではマイナス1度下がると言われている。
もちろん、この温度は、真夏の北海道、札幌の大通公園と比べての事であって、常に街を凍てつかせる冬場との対比ではない。
通年、変化することがなく北海道ダンジョンはこの気温が保たれている。
よって、この気温が著しく変化する場合は、その環境下において、トラップ、もしくはモンスター等の外的要因が関与していると考えられる為にギルドでは、気温変化により注意を構成員に対して徹底している。
そんな深階層は、今、とても悩んでいた。
いや、行き詰まっていると言ってもいい。
もちろんそれは北海道ダンジョンの深階層が悩んだりしている訳ではなくてく、ここを処点に活動する、多くのダンジョンウォーカー達は今まさに戦々恐々として、確実にやって来るであろう『変化』というか『嵐』しかも過去例のない程の『災害』にどのように対応するべきか、皆頭を悩ませていた。
結局、結論として、この深階層を中心い活動する、ある程度の団体が、大きなテーブルを前に軒を連ねるように、顔をつき付き合っていた。
ここは、D &Dが本部としている、深階層の一角。
深階層地下3階。俗称『風の砦』
元々は、ダンジョンモンスターである、コボルトが作った砦で、彼らを討伐した後にそのまま利用している形になっている。
ゴブリンとは違い、コボルトの場合は、整然と組織を作るために時折、大きさこそ大小にもよるがこんな砦を目にする事ができる。
しかもコボルトはゴブリンと違い清潔で、賢く、連帯行動をするために、危険と判断すると一度奪われた砦を奪い返そうとはしない。そして施設は清廉で強固であった。
よって、ここはダンジョン内で、しかも深階層でありながら、ギルドが構える『スライムの森』にある本部建物並に安全で快適な場所とも言える。
ちなみにここはその砦の全3階で1階には深階層での商取引組合である『HDCU』が運営するセイコーマートが営業しているのでD &Dの施設ではあるものの、一般に解放され多くのダンジョンウォーカーが往き来している。
そしてここ2階の本会議室にはこのダンジョンで名の知れた者達が作る団体のそれぞれの責任者とも言える人物が険しい表情で、どこにもない結論を呼び起こそうと、そんな話し合いが持たれていた。