閑話6−13【ちっさいって言うな!!】
雪華の、まさに親の敵の様に睨み付けてくる様な、今にも焦げ付きそうな視線を前に、真希は、もう仕方ない、って顔をして、
「あのなあ、雪華、ここで私が出るべ、すると、アッキーは『なんだ、真希さんだ、また騙されちゃったなあ』ってなるべ、それで大団円だべさ」
確かに、その場合、死に物狂いで戦い、他の仲間の犠牲の上にたどり着いた真壁秋のガッカリ感を度外視すれば、なかなかの解決方だと、いや、ここまで盛り上がっている彼の気持ちを上手に壊してしまう方法としてはこれ以外ないとも言える。
「ここまで来た秋先輩、このまま収まらないですよ、それに可哀想じゃないですか」
まあ、確かにな、と真希も思う。だから、
「まあ、おっぱいくらい触らしてやってもいいっしょ、減るもんじゃないべさ」
と真希は言った。もう自身の胸の話でそれを真壁秋とはいえ開放するという言い草は、正に、どこかのセクハラ中間管理職なおぢさんのセリフに他ならなかった。
すると雪華は、
「そんなのダメです」
とキッパリ言われてしまう。
そして、ついには言ってはいけない事を言ってしまう。
それは、
「だって、やっと辿り着いたらた先に、そんな小さな『おっぱい』じゃ秋先輩可哀想だもん」
その言葉を聞いたカズちゃんが大笑いしている。
「ああ、雪華、言ってはならん事を」
とシメントリーは呟く。
「雪華、お前…」
この手痛い雪華の裏切りに、このダンジョンの重鎮、そして事実上の真壁秋すら凌ぐと言われる未だ公式にされない強大な力を持つ、何ものの攻撃も寄せ付けないと言われる真希はザックリと傷ついていた。だからなんの余裕も工夫も無く言い返す。
「お前だって小さいべさ!」
「真希さんよりおっきいです!」
もう売言葉が、大特価セール見たいな言い合いに発展していた。
「ほんとか? じゃあ見せてみるべさ」
「いいですよ、その代わり、測りますから、一ミリ単位で測りましょうよ」「ああ、いいべ、いいべさ、やってみればいいべさ」シンメトリーが、「ほれメジャー」って雪華にメジャーを渡した瞬間に、「え? 本気べか?」「測りますよ、早く胸出してください」と一瞬引き気味になった真希に襲いかかって行く。「やめろ〜雪華、これは北海道ダンジョンに置ける禁忌の一つなんだべ」とか訳のわからない事を言っている真希である。
まさか真希も散々可愛がっていた雪華に裏切られるとは思いもしなかったので、ダンジョンの重鎮は完全に足元を掬われる形になる。
「やめるべさ、雪華、私のトップとアンダーを測ってはダメだべさ」
二人とも椅子を転げ落ちて、測ろうとする雪華と測らせまいとする真希は、まるで抱き合いながらも、そのまま床を転げ回っている。
この事実を好機と捉えるのは、
「チャンスよ、牡丹」
姉に千載一遇の好機と捉えた椿であった。
何より、この二人が潰しあってくれたのはラッキーだった。
ギルドの重鎮工藤真希に関しては今更なのだが、魔法を主としている彼女達にとって、正に鬼門と言えた。多分、どんな魔法を使っても届かない。つまり攻撃の手段が無い事になる。
そして、この二人程の魔法スキルを持っている彼女達に対して、もう一人、工藤真希レベルで対峙できない人物が河岸雪華であった。
その理由は、このダンジョンにおいて、この雪華の持つ『メディック』と言う特殊なスキルに従来型魔法スキルは対応できないのだ。
もちろん、メディック自体は蘇生や回復を主眼としたスキルなのだから、通常に考えれば脅威になりえる筈もなく、強力なスキルであるものの元々が自身の治癒が目的なスキルのはずであったのだが、この雪華の場合は他者に作用して、ここ最近では、ほぼ人を一人作り上げる程の実績をあげている。
すでに深階層に入る前から、真壁秋とは違った意味でも注目されている人物が雪華だった。
神ならぬ人の身でありながら『Man maker』と言う『人類創造』の二つ名が定着しつつある。
何より、人を作り出すスキルは、転じて人を容易に壊す事が可能だと、現在の時点で気が付いている人間の一人が此花椿である。
対人戦において、一番有用なスキルかもしれないと思う椿だ。