閑話6−11【女の戦いはもう始まっている】
もう、そんな風に考えると、フツフツと笑いが込み上げ来る薫子であった。できの悪い身内の意外な一面を見ている気分になるのである。
「楽しそうね」
と隣にいる葉山静流に言われるてしまい、
「いや、こいつらにかかれば、鼻くそほじっている真壁秋だってカッコよく見えている様でな、可笑しくて…」
すると、静流はため息を吐きながら言った。
「あのさ、喜耒さん、いえ、ここから薫子と呼ばせてもらうけど、今、貴方が何を言っているか分かって言っているの?」
と突然、薫子に食ってかかって来る。
「何を言っている? 葉山静流? 私は」
と言いかけるも、
「つまり、薫子は、『何を言ってるの? あなた達なんて真壁秋の何を知っているって言うの? 私は全部知っているんだからね』って言っているんだよ」
とたたみかけられてしまう。
一瞬、確かにそうだな、と、同じ家で生活を共にしているのだから、それは間違っていないと、薫子は思う、でも、そんなに攻撃的というか、誰かを抜きに出た考えとも思っていなくて、
「おい、葉山静流、何をバカな…」
「じゃあさ、そんな『鼻くそホジホジ』の真壁見てるけど、どう思うの?」
「い、いや、仕方ない奴だなあくらいしか」
「ほら、受け入れてるじゃない」
「い、いやそうは…」
「わかるよ、それって彼の日常だもん、誰に見せる事もない彼自身なんだから、鼻くそだって穿るわよ、可愛いなあって思う気持ちもおこるわよね」
いや、流石に鼻くそほじっている姿を見て可愛いとは思ってはいない薫子であり、それは静流の気持ちであって、自身を他者に反映させて言っているに他ならないのではあるが、怒涛の様な攻め口に何も言い返せない薫子でもあった。オタオタする薫子であった。
そして、静流は言う。
「あのね、それって、つまり『私は真壁の身内です』って言っている様なんだよ」
静流のその言葉には、反論がある、これは言い返せると、なぜなら、薫子にとって彼、真壁秋は確かに一緒に生活する仲間なのだと、そう思っている。だからそれを言おうと思って口を開いた瞬間を見計らって静流は言った。まるで、薫子の些細な抵抗を利用し、巻き込んで吹き飛ばす様な一言を言い放った。
「それって、もう『私は真壁の妻です』って言っている様なものだよ」
その言葉の凄まじさは、全く見えない所から必殺の一撃を入れらたみたいに、瞬時に薫子の意識というか思考を刈り取ってしまう。と言うか、もう何も考えられなくしまう薫子だ。
「え…、違う…、いや、違うだろ? そうか?…私は…いやいや、ないない、…、いや有るのか???」
自問自答の沼の中に没して行く薫子であった。
静流は言った、
「あのね、薫子、大切なのは、あなたがどう思っているかじゃないのよ、それを聞いた他人が貴方にどう思うかなのよ? 本当に周りとか見ないわよね」
右往誘うする薫子に、とどめになる様な、一言を放つ静流である。
わかりやすく衝撃を受けている薫子であった。
そんなやりとりを見ていた、鉾咲八瀬は薄ら寒さを覚えてつい口から、『葉山静流、恐ろしい子』と言いかけてしまう。
なぜなら、この展開の次が予想できたからで、それは静流も同じ結論を持っていて、それは、確実に、このまま彼らの行動が展開されてゆくと、その目的地にたどり着くことが出来るのは真壁秋だけだと、ここにいる女子の誰もが思っていて、問題はそこに駆けつける真壁秋に対して、誰が告白部屋で待つのかと、恐らく、ここにいるシリカに転移でもしてもらって、その部屋に行くのだろう。そうなった場合、あきらかに競争となるので早めに潰せろうなライバルを潰すと言う行動を迷いも無くて実行している冷静さに圧巻されていた。