閑話6−10【黙って戦う分にはカッコいい】
まさに命懸け、そしてその断固たる決意の少年達。
その目的が女子の『おっぱい』でなければ正に世界を救わんとする勇者の集団にふさわしい姿だった。
椎名が、じっと画面を、そして、その画面の中で戦う真壁秋を見て、
「やはり主人様は戦っている姿は素敵ですね」
しみじみと言って、頬を染めていた。
「だよなあ、あいつ、今戦っている目的はともかく、本気で戦っている時って別人だよな」
と真希も続いた。
そして、静流に限ってはつい最近、あの凶悪な強さと、そしてそれに矛盾する優しさが全て自分だけに向けられていた事を思うと、胸が高鳴ってしまう。もう泣きそうな顔をしている。
戦況はかなり少年たちにとっては旗色は悪く、それでも、これから深階層に入って行こうとしている水島をはじめとするギルドの3人は、明らかにキャパをオーバーする敵に対して良くやっているとも言えた。
そんな姿を見て、真希はボソッと呟く。
「なんか、あいつら、命がけで川を遡上する鮭みたいだな」
これにキレそうになるのは此花牡丹である。キレるとは怒るの方ではなくて、抱腹絶倒な方で、一応人前な事もあるので、なんとか耐えようとするも、抑えらば抑えるほど爆発しそうになる笑いを抑えるために筋肉やら内臓がおかしな事になって思わずの命がけになる。ついには痙攣を始める。
「牡丹、牡丹、大丈夫? しっかりして、工藤真希、あなた、姉に何をしたの?」
そんな椿に、
「お前、もうちょっと姉の事をきちんと知ったほうがいいべさ」
と一応の忠告をしておく真希であった。
何やらワイワイと真希を含む中心にいる女子たちは、刻一刻と進んで行く少年たちを見つめていた。
そして誰もが思っていた。おそらく、この状況で辿り着くのは、真壁秋だけになるだろうと大方の予想はできていた。が、その上でも、少年たちの健闘は讃えられるべき物で、その戦力の中心となっている真壁秋に関しては、本当に格好良かった。
でも、そんな一部の彼の姿の賞賛に不満のある者もいた。
「戦っている時ばっかじゃないです、秋先輩はぼーっとしている時も素敵です、全部かっこいいです」
と様々な恋する乙女補正のかかった雪華が言った。
「確かにそう、お母さんに叱られているションボリしている秋君も素敵だった」
と、うっとりと春夏もいう。こちらは真壁秋ならなんでもいいらしいので寧ろ魅力的でない所などないみたいな言い方になる。北海道民で言う所の、『鮭』には捨てる所が無いという奴に似ているかも知れない。
「え?」
と声を出してしまうのは喜耒薫子であった。もちろんその声が出てしまった根本には、『そうか?』と言う感情がある。何よりそんなシュチュエーションは数限りなく見ている薫子でもあった。彼女にしてみれば、本当に仕方なくアホな子な場面など数限りなく見ている。いや、むしろ真壁秋の人物像はそちらの成分の方が大部分を占めている。
この前も、よせばいいのにたまには自分が行くよと、薫子から木刀を取り上げて、ここにいる北藤イネスに瞬殺されたのは記憶に新しい。「いやあ、負けちゃったよ」と簡単に敗北を受け入れて、意外な程簡単に勝ってしまって唖然と立ち尽くすイネスを置いて、学校に遅刻するからと家に入って朝ごはんを食べ始めたのは本当に呆れた。ご飯を食べながらずっと母、今日花に小言を言われていた。
これに限らず、本当に真壁秋は些細な事でいつも、毎日といっていいほど怒られていた。しかも全く反省もなく、同じ過ちを繰り返しては今日花に叱られている。
そんな様子を見るたびに、これが今『北海道ダンジョンで最強』と、言われている人物かと思うと可笑しくなってくる。しかも最近の生活の中では自分もまた彼を叱る一人になってしまっているのも、ここに集まる女子達の羨望を集めている人物と言う事実を考えるとなんだろうなあ、と思うってしまう。