閑話6−9【ほとばしる、少年達のパトス】
するとゲラゲラ笑いながら、保健室の主人の佐藤和子、通称カズちゃんは言う。
「まあ、あながち間違ってないけどな」
「もともと、自分達の気持ちを確実に確かめ合うためにある場所なんだ」
ともう一人の佐藤和子、シンメトリーが説明を足して行く。
「ほら、ダンジョン効果ってあったろ」
「ああ、ダンジョンに入る男女は恋に落ちやすいって言う、あの吊り橋効果みたいな奴ですか?」
ダンジョンに入っている女子なら、まあ男子でそれなりに知る事実でもある。もちろんそれは悪い事ではない、あくまできっかけに過ぎないのだから、その後の気持ちを育てるのは本人次第と思う雪華である。
「そうだ、しかもダンジョンの場合、互いに良い感じで守ったり守られたりって言う生命の根源に響いて来るから、錯覚じゃあすまなくなるんだよ」
「じゃあ何? 過ちを排除するためにこんな施設みたいな物があるって事?」
思わず口を挟むのは此花姉妹のうちの妹の椿だった。
「うーん、ほら北海道って、離婚率高いじゃん」
カズちゃんが言った。
「確かに全国平均では高い方ですね」
椎名がつぶやく様に言った。確かに全国で1、2を争っている。
「だからなんだよ、そんな、もしかしたら、気のせいかもしれないって男女が、実際に付き合う前に、その気持ちが本物かどうか、一つの自分たちに課した障害として、部屋で信じて待つ女子と、深階層でもかなり強いモンスターが溢れる様に出る廊下、『告白ロード』を突破して意中の彼女の所に行く男子ってのが本来の形だったんだよ」
そう言って、カズちゃんはため息をついた。
「もちろん、そこにたどり着いた男子、そして女子に、実行しようとしている時点で最初から無言の契約において、告白を断る意思などないのだから、女子の元にたどり着けた男子のいうところの『何をしても良い』というのはあながち嘘ではない、それはお互いの意識次第なのだからな、互いに恋人と言うの契約を履行する以上、女子としても何を拒む理由があるというのだ」
理論整然とシンメトリーが言った。
「したっけ、結局、気がついたら誰もこの施設を使う者がいなくなってな、ほら、北海道民って、割とライトに物考えるべから、こういうの向いてないって言うべか、特に男子には命がけのイベントになるからな、待つ女子としてもそんな危ない目に遭わせたくないべさ、『じゃ付き合うべさ』って簡単にすませてしまって、告白部屋なしでカップル成立、そのまま施設は残されて歪曲された事実のみがダンジョンの中に広がって、見ろよ、今はああ言う妄想全開の男子にとっての生暖かい神話みたいな扱いになってるべさ」
画面の中では、一心不乱に戦う真壁秋の姿が映し出されている。
もうどこから見ても必死で真剣だ。
事実を知る女子にとっては痛々しく、此花牡丹にとってはとても美味しい男子の戦いっぷりだ。
「左側から突破する、みんなそれぞれ一方面だけに集中しろ」
と土岐が叫んでいる。
「土岐、無理すんな、攻撃範囲を広く取るよ!、水島君と西木田君は後方の鴨月君の援護に回って!」
「僕は大丈夫、真壁君、後ろはもう良いよ」
と言う鴨月の言葉に、
「油断すんな、前からでもあいつあらの攻撃は届くんだぞ」
西木田が叫んだ。
「今、後ろに回る、ダメだ、前にいると真壁が上手く回らない、俺たちじゃ援護にならない」
今度は水島が言った。
「みんなで頑張って最後まで行くよ!」
と真壁秋が叫ぶ。
演出なのか、効果なのか、男子の戦う姿に、その飛び散る汗に、クロスなフィルターがかかってキラキラしている。
そんな映像を見て、ほとんどの女子はため息をついてしまう。
その必死さと、その勇気(?)と、その猛々しいその姿が、画面を見る限り、全部自分に向かっているのだと、そう思える、とても幸せな勘違いな時間を過ごしているのである。