閑話6−5【持つものと捨て去った者】
この手の話題については、やっぱり妄想とか欲望が中心になるからさ、いつものみんななんだけど、やっぱりどこか、いや、全く違うんだよ。
でもなあ、だから幾ら情熱的に、また論理的に語られても正直、『うわ…』って言う想いが強い。早い話が、僕にとって彼らの行動と言動にドン引いている。
その雰囲気は直ぐに彼らに伝わって、
「なあ、真壁君、君さ、東雲とかうちの姫様とか葉山さんとかいるからって変に安心してないか?」
そう言うのは今まで拓海さん側にいて、黙って話を聞いていたちょっとイラっとした西木田くんだった。
サッキュバスさんの話の中でどうして彼女達が出て来るのさ?
割と本気で、何を言っているんだコイツら? って思う。
すると、今度は水島君が、
「そうだぞ、真壁、お前、『おっぱい』に囲まれて生活しているからっていい気になるなよ」
ああ、そう言うことか。だめだ、こいつら女の子をそう言う目で見てるだな。多分、何を言っても何を見ても女の子の特定部位しか見てないんだな、ここにいる人が全員がエロ的思考に取り憑かれた妖怪か宇宙人と話している気分になって来るよ。
ちょっとこれは、人としてさ、流石に少し言い返してやろうと思って、ちょっとコイツらを黙らせるような言葉を選んでいると、
「まあ、待ちなさい、真壁少年は少年で苦労しているんだ」
と拓海さんが言う。
「だって、コイツ、カッコつけやがって、なんか興味み無いみたいに言うから」
と水島君が食ってかかってる。
「ハハ、そんなことはないよな、なあ真壁少年」
ちょっと大人の余裕を持ち直した拓海さんは笑って言う。
「みんな、こう言う時にゆとりを持てるのは、決して持つ事が叶わない、諦めか、それとも既に持ってしまった…」
とそこまで言って激しく考え込む拓海さんだ。一瞬飲みかけた水が再びコップの中に帰ってる。ブクブク言ってる。
その様子を見て、水島君が、
「真壁、お前まさか!」
といきなり身を乗り出して、僕に掴みかからんとする勢いだよ。
すると、その瞬間にあの夜の葉山の白い肢体を思い出し、あのユッサユッサとした…
「コイツ、既に手にしてる、コイツは『持つものだ』、拓海さん、真壁はもう持ってる」
と水島君は言った。厳しく僕を弾糾する様に言う。
「そうか、ヘタレとか工藤さんが言ってたから安心て『こっち側』だって思い込んでいたけどダンジョン最強ともなると、そっちも最強かよ」
今度は西木田君が吐き捨てる様に言う。
違う、違う。ギリ見て無いし、それにダンジョン最強はこの前辞めたよ、負けたからね。僕。普通に負けた。
でも言葉に出なくて、それでも身振り手振りで否定はするものの、水島君と西木田君はとても疑ってるって顔してて、違うんだ、真面目に見て無いよ、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだよ。
すると、土岐がじっと僕の顔を覗き込んで、
「どうですかね? 拓海さん」
今度は拓海さんがジッと僕の顔を覗き込んで、物凄い覗き込んで、これでもかっってくらいに覗き込んで、僕のそむけようとするその顔に何かを見い出した様に微笑んで言った。
「大丈夫、彼はまだ『こちら側』の人間だ、改めて言わせてもらおう、ようこそ、『Dの食卓』へ」
って満面の笑みで言われた。まあご飯は食べてるからさ、食卓はわかるんだけど、『D』って何さ?
そして拓海さんは続ける。
「いいか、西木田少年、水島少年、これだけは覚えておいてくれ」
と言ってから、
「人は皆、シェルパとは限らないんだ」
と言った。
いい事言ってるみたいな顔してそんな意味不明な言葉を呟いた。
シェルパってあれだよね、エベレストの登頂を手伝う地元の人達だよね。話が飛躍しすぎて全く意味不明だよ。この話と、世界で一番過酷な仕事をしている人たちがどうしてここに出て来るんだよ。
でも土岐だけは頷いている。あとは僕も含めて置いてけぼりだよ。
拓海さんは言った。
「つまりな、そこにエベレストがあるとするだろ?」
ああ、どんどん僕の理解できる範疇を離れて行くなあって思うって、まあいいやって気になって、さて、今度は暖かい飲み物でも、と思って席を立とうとすると、
「真壁、話は最後まで聞け」
と土岐に怒られてしまう。