閑話6−1【少年達が夢見るはたわわな双丘】①
僕らは、その秘密の入り口の前に立っていた。
メンバーは、僕、いつもの格好だね、普通にあの頑丈なジャージに例のマテリアルソードを片手にしている。
すぐ横には土岐がいる、今日はフル装備だよ、クロスクロスの装備も結構な値段がしていそうだったけど、まだそれよしもレアっぽい黒系統のフルプレートメイルに見た目に神々しい剣を腰にしている。
そんな姿だけで、土岐がどれほど本気かわかる。
そしてその隣にいるのは水島祐樹君と西木田翔悟君、そこからちょっと後ろに引いて、鴨月重文君がいる。
みんなギルドの子なんだけど、装備が今回は違っていて、何より何時にない気合いに満ち溢れているのがわかる。
今僕らがいるのは、大通り公園の端、創成川通り、そしてここはその一角にして、橋の下にいる。
その橋の下に、そこへ続く入り口があったんだ。
これじゃあ、誰も気がつかないよ。
北海道ダンジョン中階層にして、位置的にはほぼ深階層の位置。
通称『遥か豊かな双丘が待つ約束の地』に続くルートは、ここからしか行くことが出来ずに、そして、ほぼ一直線に続く、その場所に向かうためだけの入り口。
僕たちはその入り口の前にいたんだ。
話はちょっと前に遡る。
その日、僕はサクッと中階層のジョージを倒して、いよいよ僕も深階層への資格を手にいれていた帰りに、(真希さんに頼まれて)一緒に行ったギルドの水島祐樹君の提案で、まあ、偶にはちょっとお話しようよって事で、ダンジョンの入り口が集まる大通りから離れたお肉系ファミレス『ビクトリアステーション』で、ちょっとした反省会みたな物をしていた。
反省点とかないけど、近況報告みたいなものだけど。
ちなみに今回は僕ら男子だけだったんだよ。
それよりも前に、雪華さんとか相馬さんとかは既に深階層へ入れる資格は得ていて、実はその時に真希さんたってのお願いで春夏さんも一緒に行っていたらしい。
ちょっと出し抜かれた感じになってたけど、一応は僕にもって思っていた真希さんだったけど、ほら、葉山の件とかあったじゃない。だから気を使ってくれてたみたい。
まあ、それを言われると、僕も今回、葉山とか茉薙を助けてもらった恩とかもあるからさ、かえって雪華さんなんて、茉薙に付きっ切りで、今、僕らと同じタイミングでは行けなかったかもって思うとよかったのかもって思う僕なんだけどね。
「真壁君、何か持ってこようか?」
って終始こんな僕に気を使ってくれるのは、鴨月君。この前シンメトリーさんの救出の時に一緒だった人だね。
いやいいよ、優柔不断を楽しみたい僕としてはここの豊富なドリンクバーでのメニューの選択にはその場で頭を悩ませたい所なんだ。
「まだ残ってるし大丈夫」
遠慮させてもらうと、その彼を追うように、
「重、俺も行くわ」
と一緒に立ち上がるのは西木田君だ。
現在、ここにいるのは以前、浅階層のジョージの時の女子を抜いた、ギルドのメンバーと僕と言う組み合わせでの挑戦だったんだ。
鴨月君は自分の飲み物だけを取りに行く。チョイスは抹茶だった。渋いなあ。でもがっつミルクを入れてるからスイーツぽい仕上がりになってる。
今日は僕らは遅めの昼食。そしてのんびりとドリンクバーを楽しんでいる。今度はウーロン茶かなあ、とか思っている僕だよ。
「意外にお前、食、細いのな」
と言うのはどう言うわけか、ここにいるクロスクロスの土岐だ。
今回の挑戦とは何も関係なく、このお肉メインのファミレス、北海道が誇る『ビクトリアステーション』に着いたら、既に人数分の座席を確保して待っていた。
「ダメだよ、真壁少年、今、育ち盛りだろ? 遠慮しないでどんどん食べたほうがいい、ここ『大俵ハンバーグ』オススメだよ、いいから、どうせ経費で落とすからじゃんじゃんやりなさい」
そして、この人も。
今はもう、直接の知り合いみたいになってしまっているけど、元々は僕に対して何かと協力してくれる冴木 翔子さんの彼氏という薄い知り合い。何かと面倒は見てくれている様だけど、なんだろう、今ひとつ、この人とは数枚の壁を挟んで付き合っている感じが否めない。
そんな、全く関係ないはずの塩谷拓海さんまでもいる、と言うかここでの食事代とか何故か奢っていただいている。ごちそうさまです。
どうも、今回の中階層のジョージとか関係の無い話になっている感じが半端ない。
「なんだよ、真壁、偶には男だけってのもいいだろ」
とか水島君が言うんだけど、そのテンションが妙に高いんだ。というかどこか落ち着きがない。
「一体何が始まるの?」
どストレートに聞いて見た。
すると、土岐が、
「まあ、待て真壁」
と何やら勿体つける。
「重! 翔悟、じゃあ始めるぞ」
何やら急に空気が変わる。
一体何が始まるというのだろうか?