閑話5−9【茉薙の使命、雪華は俺が守る!】
次に目を覚ますと、そこには雪華がいた。
「ほら、茉薙、もう帰るよから、支度して」
と普通に言われる。よかった、もう怒ってないと、茉薙はそう捉える。
周りを見渡すと、そこはギルドの保健室。
「お、茉薙、気がついたべ。よかったべさ」
と真希が保健室に入って来て言った。
キョトンとした顔をして二人の顔を見る茉薙は、また迷惑をかけてしまった事に酷く落ち込んで、
「ごめんなさい」
と言った。
「うん、わかったわ」
と雪華が言う。もちろんもう怒ってなどいない。それよりもまた怖い思いをさせてしまったのだろうか? 体が動かない事は茉薙にとっては重大なトラウマでは無いかと思う雪華でもある。
「ほれ、雪華、茉薙に相談したいことがあるんじゃなかったのかい?」
と真希に水を向けられて、コホン、と可愛らしい咳払いをしてから、
「あのね、茉薙、真希さんから聞いたけど、茉薙って強いんだね」
そんな言葉に、茉薙は、
「強く無い、さっきは散々だった」
と、珍しく自信なさげに言う。この辺の実力差についての事実への捉え方はシビアな茉薙だ。
「いやいや、そんな事ないべ、私相手に良くやったべ、茉薙、十分強いべさ」
と真希が取って付けた様なフォローをする。
その焦った様な言い方とか、取って付けた様な表情とかの前に、茉薙はその言葉だけに反応して、
「そうかなあ……」
と呟く茉薙。
「ほんとほんと、嘘じゃないって、私、今まで生きて来て嘘ついた事ないべさ」
その虚偽の確認に茉薙は雪華を見る。激しく頷いている雪華だ。
ちょっと納得がいかないものの、まあ雪華も頷いているし、納得はするものの、未だシュンとしている茉薙だ。
そして雪華は言う。
「だからね、私、これからは茉薙に守ってもらおうと思うのよ」
その言葉に、雪華を凝視する茉薙。いや、雪華だって強いと思う、ペッタンコだし、自分を蘇生してくれたスキルも凄いし、と言おうとするが、
「実は私のスキルって戦闘向きじゃないのよ、だから、茉薙が守ってくれると助かるな」
あ、なるほど、って顔して、茉薙は、
「俺が雪華を守る?」
と言い返す。と言うか確認を取る様な言い方になる。
「うん、そう、茉薙が無理だって言うなら仕方ないけど」
「無理じゃない、大丈夫、俺、雪華を守るよ」
茉薙はそう宣言する。
「ありがとう茉薙、お願いね」
そんな言葉を持って雪華から契約は締結される。
茉薙の中に火が、いや炎がともったような、熱い想い。それは今まで味わった事のない高揚感。
そして、何よりも茉薙の中に生まれた始まりの使命感。
茉薙はここで一つ、やる事、生まれて来た事で果たすべき使命が生まれた。
よかった、俺、雪華に叱られる為に生まれて来た訳じゃなかったんだ。
ようやくここに、茉薙は雪華との適切な距離と関係が生まれた。
「じゃあ、帰ろう茉薙、地下鉄の乗り方教えるから」
と言う雪華に、
「地下鉄から守ればいいんだな」
と、あまりに強大な、恐らくこれから日々乗る(雪華の家の最寄駅から大通りまで)であろう、札幌市営地下鉄南北線と言う新たな敵の存在に心踊る茉薙である。
張り切る茉薙を前に、ひとまず地下鉄がなんであるか、そこから始めようと思う雪華であった。