閑話5−8【工藤真希は再起不能なダメージを受けた】
ドヤ顔で『殲滅の凶歌』なんか、ちょろいちょろい、的な事を言う真希に対して、素直に信じる茉薙は、そうか、いきなり一番強い奴に挑んでしまった事に後悔した。
じっと真希を見つめる茉薙は、ここで一つの結論に至る。
自分の論理を、その動かぬ証拠を確認する作業に至る。
なんと、こともあろうか、真希の胸をペタペタと触り出した。
その大胆な行動に、流石の真希も、
「お?、大胆だべ? 顔は同じでも茉薙の方が積極的って事だべか?」
とさして恥ずかしげもなく、子供のする事だと咎めもせずに、ニコニコして真希は言う。
そんなペタペタと真希の胸を触り続けて、確信を得たりとした顔をして、
「やっぱ、ペッタンコは強いな」
と、まるで自分の理論(?)が裏づけされた様に誇らしく、感慨深く言い放った。
その言葉に、
「ぐはあ!」
と、前のめりに倒れる真希であった。
ある意味、瞬殺された真希だった。
この問題に関しての防御力はデリケートで紙よりも薄い真希なのである。だから最近ギルドでこの問題に触れているのは、同志でもある雪華くらいのものであった。
その後、未だダメージが抜けきらない真希など放っておいて、茉薙はここでの目的を果した事もあって、とっとと後にする。先ほど真希に調子が悪いのか? と言及されたことがちょっと気になっていて、しかも胸の辺りに違和感がある様な感じがしていたのもその理由の一つだった。
なんか変だ、早く帰ろうと思いギルド本部を出て、きっと雪華もまだ怒っているだろうなあ、嫌だなあと考えて、スライムの森へと出てゆく。
なんと無く気が流行る茉薙は、2.3歩歩くと既に駆け足になって行く、そして、スライムの森の丁度真ん中くらいで、その変化が起こった。
あれ?
息を吸い込むと胸に違和感が。
そして、それは茉薙の行動を大幅に制限して、やがてそれを止めてしまう。
つまり、茉薙は倒れてしまった。
声を出そうにも言葉も出ない。ただ、ゼーゼーと血の匂いの混じる細い息が吐き出され、息を吸うと、なぜか口の中に入っても体の中には入ってきてくれない。
うわ、なんだコレ?
動かそうとする腕や足に全く感覚がなくなっているのに気がついた時には意識はどんどん暗がりに落ちて行く。
そんな薄れ行く意識の中で、どうしてか、雪華の顔が思い浮かんだ。
なんと無く、悪い事したな、と茉薙は思った。
折角造ってもらった体を壊してしまったから、そのことについて大事に使わないで悪いなあ、とただ漠然と考えていた。
その上で、自分は死ぬのだろうか?
とても寒くて、寂しくて、同にもできない自分の弱さとか脆さに情けなくなる茉薙だった。以前は葉山静流、そして今は雪華に迷惑をかけて重しになっている自分が惨めに感じた。
そうだ、一人で生きていけない事なんてわかってる。
今までは静流、そして今は雪華がいなければ茉薙は生きてはいけない。
そんな事は誰よりもわかっている。そして、また誰かに迷惑をかけていて何もできない自分がいる。
薄れ行く意識の中で、どうしてか真希の声が聞こえた。
「だから言ったべ、『与える』だけじゃ、助けたことにはならないべ、この子はもう人だからさ、支えてもらうだけなら、なまじ体がある今、欠けてるモンに焦りや不安を感じてしまうべさ」
多分、茉薙では無い誰かに言った言葉だと思う、でもどうしてか、それは茉薙の心に響染み渡る。
そしていつの間にか苦しくなくなっている自分に気がつく。
今の茉薙には見えない。そして聞こえない。
でもわかる。
雪華が来てくれた。
だから安心して茉薙の意識は途絶えた。




