閑話5−6【茉薙、工藤真希への挑戦】
ここに構築されているシステムの一部を破損させたのは真希と他のギルド員なのだ、不慣れな者たちの余計な手による者である。今は全力でその修復に当たっているのが澪であった。
クラッシュした時、澪は、特に何も思ってはいなかったが、これ以上の窮地はごめんだったので、その改善に全力で取り組むために、「ここはなんとかするから」と言ったものの、責任を感じてなかなかその場を動かない他の構成員に対して、
「みんな消えて居なくなれ」
と言い放って、他の人員は居た堪れず帰ってしまう。
この時、澪は、「みんな、大丈夫だよ、あとは、私に任せて、システムが使えない以上、ここにいても同じだから、帰れる人は帰っていいよ」と言った内容を、端的に述べてこの物言いになってしまっていた。
まあ、結果は同じなので、自身の発言がどの様に他人に作用しどの様な心情をもたらしたかなど、考える事もない澪でもあるので、仕事がしやすい環境に移行できた事実が嬉しかったりする。とは言うものの人の心については追い追い勉強してもらいたいものだ。
そして、そんな時に茉薙が来た訳だ。この時点て、一応心配と言っていたけど、澪から見ると戦力外な真希に、今してもしなくてもいいデーターの入力をお願いしていたので、別に真希が茉薙を構って手を離すのは特に問題の無い事だとも言えた。
ちなみに、こんな状態でも澪と真希に付き合っている麻生はと言うと、完全に戦力外でお昼ご飯を買いに、地上に赴いていた。
それでも、茉薙が、この場に来た時は、さすがに真希もヒヤッとしたようで。
「お、茉薙!」
茉薙一人だけの姿を確認するも、焦りつつも、
「雪華は?」
しまった、もう来た、雪華に怒られると、思わず身構える真希に、
「雪華はいない」
と答える茉薙。
「なんだべ、脅かすなよ、で、茉薙は何しに来たべさ?」
再び自分の業務に戻る。とてもホッとしている様だった。ギルドの重鎮は、今一人の女子中学生の存在に完全にビビっていた。なんとも情けない話である。
そして、特に目的も無い茉薙はその真希に出会ったので、ちょっと考えてみて、思いついたのが、あ、ここは行きがけの駄賃に、この動き易い体を手に入れた自分は、きっとダンジョンでも最強なのだから、サクッと真希でも倒して置こうかと、悪知恵と言うよりは割とお子様的な発想が浮かんでしまう。
「なあ、あんた、強いんだろ? 俺、今、最強だから、倒しちゃってもいいんだよな?」
正直、どんな理屈だよ、と普通なら言われるだろうが、そこは真希である。
「うーん、お姉ちゃん、ちょっと忙しいけど、片手間になっちゃうけど、それでいいなら相手になるべさ」
おそらく、ここに茉薙がいると言うことは、遅からず雪華もここにやって来ると言う事だ。終わらすことはできなくてもå、何とか真面目に取り組んでいる事をアピールした真希でもあった。
だから慌てる真希は茉薙の方など一瞥もせずに液晶画面に視線を貼り付けたまま言う。
現在、茉薙は武器は持っていない。でも、この体なら、全力で行けば、そんな些細な事を気にせず、今は、油断して自分に背中を向けている、工藤真希を倒せることができる。
ここで、普通の剣士なら、正々堂々とか、きちんと向かい合って、とかを思うのだろうが、そこは茉薙なので、自分にとって有利になる現状に置いて、そんな思考は1ミリも無い。
葉山静流と共に戦ったこのダンジョンでの日々。
要は勝てばいいのだ。
だから合図も告げずに、茉薙はその瞬間、全力で真希に迫った。まるで動く気配のないその背に向かって最短距離で迫る。
そして次の瞬間、
「あれ?」
と茉薙自身、おかしな声を漏らす。
迫って接する筈の、真希の姿が無い。小さい真希の背中を、この短距離で見失ってしまったのだ。