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閑話5−1【茉薙逃走】

 バン! と玄関の扉が開く。


 中から飛び出して来る幼い少年。


 「ウッセー! 雪華のバーカ!!!!」


 それを捨てセリフに、葉山茉薙は、現在、彼がお世話になっている河岸雪華の家を飛び出して行く。


 ちょうど今、自身の里親先であるこの家に帰って来た相馬奏でと入れ違いで、その捨てゼリフを聞いていた彼女は、


 「お前、恩人の雪華になんて口を叩くんだよ、謝れ」


 と入れ違いで出て行く茉薙を捕まえよとする手をスルリと躱して、


 「弱い奏は口を出すなよ! バーカ!!」


 と外に飛び出てしまう。


 「あ、コラ! 茉薙、ちょっと待て!」


 という奏を、


 「いいわ、行かせて」


 と、リビングまるで這って出てくるゲッソリした雪華が奏にそんな事を言った。


 「いや、でも、いいのかよ?」


 「どうせ行くところってダンジョンしかないから、真希さんで足止めになるはずだから、今はちょっと休ませて」


 と行って扉を持ったままズルズルとヘタリ込む雪華に、


 「雪華!!!! しっかりしろ!」


 と駆け寄る奏であった。


 ともかく、あの、エクスマキナの誕生により、辛くも命を繋ぎ止めた茉薙ではあるのだが、その誕生と創造も大変であったが、それよりも、もっと大変だったのは、人として独り立ちした茉薙の、いわゆる一般常識と言われる物への適応であり、その奔放な態度と生き方をどの様に一般社会に擦り合わせて行くかが、今、雪華を疲弊させ、限界まで消耗させている。


 ほとほと茉薙への対応に頭を悩ませている雪華でもあった。


 甘やかすと天井知らずでつけあがる。


 怒ると、今みたいに逃げる。もしくは隠れる。


 何かを達成、もしくはそれに近い状況になった時にきちんと褒めてやらないと拗ねる。


 初めて学ばせる物があるときは、興味を持たせ飽きない様にさせないとこれも逃げる。


 興味のない事はしようとしない。


 どう言うわけか、やたらとまとわりつく時がある。


 雪華は思う。


 今まではあくまで葉山静流の中にいて、決して一人になる事がなかった茉薙が自我と肉体を初めて持つ事ができた茉薙が、初めての他人である自分に何を求めているのかが、考えたくないが理解できていた。


 おそらくは、葉山静流と同等のものを求められている。


 多分、それは母性だと思う。


 しかし、雪華にしても、確実に母を知っているかと言われるとそうではない。


 物心ついた時には、あの母は雪華を置いて、ほとんどの時を東京の本社で過ごしていた。だから、母を知らないと言われると、その通りだと考えてしまう。


 そして現在もまた、生物的上の母であり、それらしい人物はいるものの、その人物に母性など求めたことも無い雪華である。


 確かにエクス・マキナで茉薙は救った。


 でも、だからと言って、自分の様に母なんて知らない、しかもまだ中学生になったばかりの少女にとってそれはあまりにも大役で、正直面倒を見切れないと言う感情も確かにある。


 でも雪華は、あの時、生きる事を選択した茉薙を絶対に見放したりはしない。


 しかし、それは決して母性からくるものでも無い。


 お互いが求めているもの求められている物が違っていて、一応の生活や教育はできるものの、いまひとつ微妙な関係に陥っている茉薙と雪華であった。


 そして、そんな問題をよそに日常は当たり前の様に流れて行っているわけで、その雪華が、どのくらい大変かと言うと、今現状は、トイレの場所と形と利用方法についての躾がなんとか完了していると言える程度で、その内容は、油断すると、流し忘れ、そして、鍵の使用、それ以前に扉を閉めないと言う事を時折怠るが、努力はしていると行った程度なのである。


 あと、外に行っての商店の物を勝手に食べたり持って行ったりも割と早めに躾できた。


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