閑話4−8【新たなる伝承 デウス・エクス・マキナ④】
そんな様子を見て、この奇跡を最後まで見ていた者たちはホッとして、安堵のため息を漏らすと共に、この膨大とも言える全行程を完全成功として終了させた雪華に驚嘆の声をそっと上げている。
そしてその中にあって、台座で寝息を立てている少年の顔をジッと見て、工藤真紀は驚きを禁じえなかった。そして今度は訪ねてしまう。
「なあ、あれって…」
その言葉に答えるのは麻生であった。
「まあ、そうだな」
と一言。
そして、そのさらに後ろにいる、雪華の同期で親友で、一緒に生活をする相馬奏でが呟いた。彼女のスキルによって強化されている目が、少年の顔と、ここにはいないとある人間の顔との適合率を弾き出す。その彼女から結果出た声が、
「うわあ……」
と、その奇跡を前に、まるで呆れるが如くにため息にも近いつぶやきを漏らす。
「なあ、あの顔ってさ…?」
と一応眠い目を擦って付き合っていた水島が誰とも無く言う。
「よく見えない」
以外に西木田は目が悪い。深夜遅くまでゲームに興じている所為だと本人も自覚している。
「まあ、いいよね、助かったんだし」
と最後は鴨月がしめくくっった。
そして、この奇跡に立会いっていた、D &Wの此花椿は、未だこの自体、雪華によって丁寧に作られた茉薙の顔について、
「ねえ、牡丹、彼女は『真壁秋』の弟を作りたかったって事なのかしら? あ、でも、この場合、時を隔てた双子という言い方の方が正しいかもね、双子かあ、いいわよね双子」
と何やらしっくりとくる様で、満面の笑みで姉の牡丹に話しかけていた。
そして、姉の牡丹はと言うと、椿とは全く異なる意味で、妹のこの的外れな意見に微笑みを返していた。
展開されていたエクス・マキナが収束して、ふらふらの雪華は、いつの間にか後ろに来ていた佐藤和子に支えられる。
「よくやったな、雪華、後は私達に任せて、保健室で休め」
と言われるが、
「大丈夫です、早くこの結果を秋先輩たちに見えせないと」
と力なく微笑んで、そして、自分が救った少年を見る。
もう大丈夫、きっと立てるし歩くことも出来る。
全ては人として完成された状態に創られているのだから、もはや何を心配する必要は無い。
ただ、元からあった部位と、悪魔の花嫁であるリリスと言う極めて強力なモンスターで作られた部位との齟齬が心配になる。
でも、その結果にはある程度の運動と、時間の経過が必要になって来る。
引き続きの経過観察が必要だ。しばらくは自分が預かろうと、今後とも注意しなくてはと、そう思う雪華であった。
そして、横たわりスヤスヤと寝息を立てている少年のその姿をジッと見て、今は寝ている茉薙は、目が覚めたらた驚くだろうか?
そして、もたらされたこの結果に対して何を思うのだろうか?
きっと茉薙は自分の事など知る筈もないから、まずは自己紹介から初めないと。
疲れた頭で様々な思うが錯綜するものの、それでも完成された茉薙を見て自画自賛もしてしまう雪華は、
「なんか、ちょっと可愛いかも」
とか思っている自分がいる。
その言葉が雪華から出たとしたら『まあ、そりゃあそうだよ』と、ここにいる全員に突っ込まれていたに違いない。
ひとまず、一つの奇跡は今成功となった。
新たにこのダンジョンに誕生したクラスは『エクス・マキナ』。
唯一絶対の一人にして、生命に関する最強の治癒力と創造の力を持つ。
こうして新たなスキルと雪華の断固たる思い、そして何よりダンジョンの意思、さらに隠し味程度の雪華の趣味により、無事に茉薙は蘇生と言う完成に至ったのである。