閑話4−7【新たなる伝承 デウス・エクス・マキナ③】
気持ちはあってもそこに確実な知識と技術が満たない者には人は出来ない。
プラモデルやおもちゃのブロックを組み立てるのとは訳が違う。
星を数える行為にも近い膨大な知識と奇跡の量だ。
かつて誰もできなかった試みがなされているのだ。
それを可能としているのは一重に雪華の膨大な知識にある。
未だ中学生にして、その医学の知識は現代の学識を網羅していた。
元はと言えば、スキルのない自分が、戦闘能力も無い自分が、このダンジョンで、そしてギルドで何かの助けになればと始めた、とりとめのも無い努力が実を結んだのである。
このダンジョンは、そんな少女の努力や願いを見逃す事などは無い。
なぜなら、北海道ダンジョンは、『子供の不幸を許さない』なのだから、これはある意味、偶然で無く、このダンジョンを作り出すモノの意思による決定でもあるのだ。
まともな努力は叶えられるべきで、それが子供達の生命に関わる事ならなおさらの事。
まして、それが真壁秋の生命や肉体の損傷にの治癒や死守に当たるのなら、全ての例外やこれからもたらされるであろう結果など考慮する必要もないのである。
なぜなら北海道ダンジョンには確たる主観がある。
それは何をおいても『子供達の安全』と更に、その中の個人である『真壁秋』の安全と健康、ついでにその願いが優先されているのだ。
彼がこのダンジョンの全てを与えられてから、この決定が覆る事はない。
もちろん、この事実を知るものは少ない。
何よりただのダンジョンウォーカーだと自負する真壁秋にその自覚も無い。
真壁秋は、葉山静流を助けると意思決定した。
そしてその中には、当然葉山静流の中にいる茉薙もまた含まれている。 なぜなら、茉薙を犠牲にして葉山静流が助かったなど、助けた事にはならないのだから、あの少年は、欲深くその願いを具体的に考えていたのだから、それに応えない筈もないのである。
真壁秋の願いは東雲春夏に伝えられ、それを成すことが出来る少女に力は委ねられる。
一見複雑に見えて、ひどく単純な構図だが、それは他に揺るぐことのない形を成して時の流れに乗る。
もはや成功は約束されているのである。
機械仕掛けの神座によって茉薙の構成が開始される。
一つ一つ砂を積み、まるでそれを山にして行く様に茉薙と言う少年を積み重ねて行く。
茉薙の身体の制作はコツコツと続けられて時間を追うごとに形が整えられて行く。
そして、その奇跡はほぼ一夜に渡って続けられていた。
ギャラリーも大分減って、今はギルドの面々と、深階層の代表的に組織くらいしか残ってない。
一応、怒羅欣の北藤は残っていたものの、すでに立ったまま熟睡していた。
その前で、神の奇跡を行う少女は、今も意識をこの空間の全てに溶かして、その行為を切々と実行する。
人の身ではありえない程の数十数百数千の同時進行により、茉薙は形作られて行く。
その雪華の様子はまさにトランス状態である。
粛々と行程を、段階を進み、その部位は人の形を創り始める。
骨を形成、肉を作り、皮膚で覆った時に、雪華の後ろでじっくり眺めていた、真希が呟く。
「ん???」
と言ったまま、再び口をつぐむ、いや、今、言うようなことでも無いな、と判断した様だ。
流石に、葉山静流の内部に収められていた部位の一部を起点としてる為、人となった茉薙の全体量は若干小さいと言えた。
おそらくは、小学生の小学年から中学年の間くらいの肢体が出来上がりつつある。
全てが完成した時、少年の胸が小さく膨らんだ。どうやら呼吸を開始した様である。
まるで、深い眠についている様な、茉薙は、どうやら夢の中。意識が無いというよりは眠ってる状態に近い。