第49話【武道団体 札雷館から春夏さん返却願い】
ダンジョンウォーカーには変わり者が多い。
僕も、最後の一言には賛同だ。確かに、そう思ったら何故か頭の中にこの前の『狸小路現金つかみどり対戦』での守銭奴装備の真希さんが出てきて『私のことだべか?』なんて言うから笑ってしまった。そしたらテーブルをバン! って叩かれたよ。
「何笑ってるんだよ、ふざけているのか!」
また立ち上がろうとする、彼を今度は右にいたイケメンさんが制する。「先輩落ち着いて」なんて言われて、「落ち着いてるよ!」って言い返してた。
先ほどから繰り返し言っている頭の悪そうな彼の言い分は、ザックリ言うと『春夏さんを返して』と言うことらしい。
彼女はダンジョンに入る為に、自分の通っていた道場を辞めたらしい。
僕の知らないところだったけど、春夏さんて、全国展開する道場の中でも相当に強くて、何度も大会での優勝なんてしていた立場なんてあっさりと捨てて、今はダンジョンに入っている。
彼女は何も言わないけど、きっとそれなりの覚悟があったのは容易に想像できる。
理解も賛成もできないけど、言いたいことはわかる。でも、それをどうして僕に言ってくるのかがわからない。
直接そんな事、本人に言えば、って感じだけど、その本人に断られているんだから、もう、なんていうか、どうしようもないよねこの人。
僕が無理して彼等側に立ってみると、もう、諦めろとしか言えない。
恥ずかしさと情けなさと、無理やりを足して、5くらいを掛けた物言いだよ。鶏か烏骨鶏と話している感じかな。もう羽音かコケコッコーかって感じ。
そんなものに相槌や返事なんて無用だよね。
あ、春夏さんに聞いたけど、このイケメン長身乱暴者は大学生だって、大学2年生。
いくら彼が年上だろうと、春夏さんとどんな関係だろうと、春夏さんの意思でダンジョンに入っている訳で、一度だってそれを強制した訳じゃない。
それにさ、これは僕も知らない事だけどさ、僕、ダンジョンに入るのが一年遅れてるから、彼女としてはこれでもぎりぎりのタイミングなんだよ。ここを逃したら元も子もないってか、そもそもの目的も変わってくる。
代価としても成立しないしさ。
ってとこまで考えて、なんだこれ? って思いつつも、そのことについて考えるのは今はやめておけって、指摘が脳内にされるから、そうだよね。ってなる。
そんな、ちょっと呆けてる僕に、
「ガキみたいな顔しやがって…」
って僕をジッと見て、憎々しくつぶやくイケメン長身乱暴者の彼は、吐き捨てるみたいに言う。ちょっと背が高くてイケメンで大人っぽい顔してるからって、いい気になってジャイアンになってるよな、って思う。
だから僕も本音で思うよ、いいな長身、子供扱いされない顔。うらやましいな、まったく。って思った。口には出さないけどそう思った。
確かに春夏さんがダンジョンに何を求めているのかなんて僕も知らないけどさ、好きで入っている以上、僕は春夏さんの決断というか行動を応援したいよ。
それでも、なんとか僕を説得しようとしているイケメン長身の乱暴者さんが熱くなって声を荒げているその言葉を、
「ほら、君島くん、そんな言い方って、彼も困っているわ」
って横から現れた女の人にそう言われる。
僕のいるテーブルの前に、彼女が買って来たであろう飲み物を出してくれる。なんかスポドリ出された。
そして、スッと一人で掛けてる僕の横に座る。その顔をすぐに僕の方に向けて、
「ごめんね、真壁くんだよね、話は春夏から聞いてるよ、幼馴染なんだって?」
そっか、こいつ君島っていうのか、君島君かあ、つまりは君島君さんってことだね。敬称をたくさんつけ、距離を感じたい僕だったりする。
突然現れた女の人、君島って言われたイケメン長身乱暴者よりはだいぶ話しやすい感じ。でもそれにしても大きな女性だなあ、君島って言う人も大きいけど、彼女もまたかなりの長身だ。