閑話4−6【新たなる伝承 デウス・エクス・マキナ②】
これは、知られて無い事実ではあるが、かつて、真壁秋が今は自身の重鎮となる多月蒼を殺害しかけた際に、五頭というヒーラーが使ったのはメディックである。あの時は、真壁秋を通して、メディックというスキルを強引に開かせてしまったのである。
つまり表立って出ていないだけだが、今は秋の木葉の五頭にもメディックのスキルはあるのだ。しかし通常のスキルと異なって、このメディックというスキルは、特に他人に対して行われる時には『医療』への確実な知識が必要なので、五頭の場合、真壁秋のあの反則級なスキルの介助が無い今現在持っていても使えないのはこんな道理からである。
話は逸れたが、つまり、このダンジョンいおける一般的な回復とは過去にあるものならどんな物でも修復が可能であり、無い物は修復できない理由なのだ。これに現在の茉薙が該当していた。
しかし治療を目的とするメディックはここから切り離されたスキルでヒーラーと同じ結果をもたらすが、結論は一緒でも、その種類は全く異なる。
しかし、だから、何も無いところから人を作り出すなど出来るはずも無いのだ。
例え、この空間を作用させてダンジョンからあらゆる物を作り出せる佐藤和子の協力があったにしても、人の部位を作り、そしてそれを組み立てて人を成す事など過程と部位の膨大さに普通の人間にできる筈もない。
その複雑さを例に挙げるなら、生命としての人体の複雑さは、大型の施設どころでは無く大きな都市そのものに該当する。
雪華の場合、本来のメディックとは異なり他人に対してもその対象を広げているだけでも従来のスキルを大きく逸脱しているとも言える。
あの時、浅階層でのラミア騒ぎの時に真壁秋の片腕が吹き飛んでしまった時、アモンは慈愛の力の一部として、従来のヒールのきっかけを与えた筈であった。
しかし、あの時に雪華の頭の中にあった物は『どの様に自分を庇って傷ついた真壁秋を治療するか?』と言った具体的なプランであった。
彼女は自分を庇う真壁秋の千切れる腕をつぶさに観察して、冷静にその治療法は選択していたのだ。
彼女の中にある膨大な医療知識が、現代医療の最先端情報が具体的に治療方法を取捨してゆく過程において、アモンが差し出した慈愛に相当するスキルの切っ掛けの中から彼女が選んでしまったのが、メディックだったのだ。
ヒーラーの様な自動的に過去に遡行して復元する能力では無い。
自身が考えて、手を加えて、マニュアルの様に細かく治療して行く、どちらかと言うと本来、このダンジョンで言われる回復系の力よりも小規模な、今までは自分自身を修復する能力。
そして今まさに、この希少スキルである、そのメディックがさらなる進化を遂げて人を創り出そうとしている。
今、無い部分が殆どである茉薙を作り出そうとしていた。
目的は様々あったが、この北海道ダンジョンで、かつて試みたダンジョンウォーカーもそれなりの数は確かにいた。それに伴う有用なスキルも存在した。
しかし結局できるものとしては出来損ないのホムンクルス、木偶人形が関の山だった。
例えば、適当な量の粘土を与えられてそれで人を作ってみよ、と言われても、よほどの写実に才能のある人間以外、出来上がるのは人の形をした人に似た何かになる。人が自身による人の姿形などその程度の認識なのだ。
どんなに思い入れがあって、どんなに強く欲して、そして願っても、人が人を精密に構成させる事など出来はしない。それが例え外観だけだとしてもなのだ。