第269話【茉薙と静流】
「1人で寝るのが怖いなんて、静流も子供だなあ」
って無垢に妹が言う。なんかホッとしてしまう僕だ。危なく15Rどころか、18Rの垣根も超えてしまうところだった。無垢な、子供な妹の登場で助かった。
そして、面白い事に葉山はそんな小さな妹に抵抗ができない。
手を繋がれて、連れられ歩いて言ってします。
「え? ちょっと待って、あれ? 妹ちゃんなんで?」
すると妹は、パニクる葉山の顔を見上げて言う。
「ああ、そうだ、言ってなかったけど、一応は静流は私の信徒だからな、あがなえないよ、他の二柱とも相談したけど、今回は私が『奇跡』を与えている形になっているから、静流は私んだからな」
本当に小さな妹にどんどん連れていかれながら、
「え? え? え?」
ってなってる。
さらに妹は言った。
「後な、2人で寝ると3人になっちゃう時があるから、気をつけた方がいいぞ」
と言った。
んー、どう言う意味だろ?
考えない考えない。いいや、もう寝よう。
ベッドに帰ろうとすると、なんか棒みたいに立ち尽くしている姉、じゃなくて薫子さんが同じ室内にるけど、まあいいや。そのうち我に返ったら帰るだろうと思って、シーツを取られたベッドで布団をひっかぶって寝た。
ちょっと散々で、お礼としてはどうだろう?って考えるけど、何にしても葉山が元気になってよかったよ、って思いながら、やっぱり疲れは大分余っていたみたいで、綺麗に睡眠に入って行けた。
そして、その次の日の朝、訪問者が現れた。
「ごめんください」
と玄関に立つのは雪華さん。
うわ、見た目にボロボロだよ。目も何時もの雪華さんじゃないし、ちょっとふらふらしてる。
本当に大変だったんだって思った。いつもの雪華さんなら、ほらお嬢様だからさ、きちんと体調を考えて休んで身支度して来るってのが普通だけど、この雪華さんにはそんな姿を押してまでここに来ないといけない事情って言うう物があったらしい。
それは一目ででわかった。
だからなのか、雪華さん、何となく嬉しそうっていう笑顔を作っていて、色んな意味で凄い子だなあって思った。
でもそこはそれ程気にならなかった。
僕が注視するところはそこじゃないんだ。
彼女の横にいる、彼女よりも小さい男の子。
年齢で言うと、見た目に小学生の低学年くらいかなあ。
僕にだって、彼が何者なのかすぐにわかったよ。わかったけど、何だろうなあ、この顔、どっかで見たことがあるなあ。ってちょっと考え込んでいた。
僕の方を見ると、なんか挑発的な目をするんだけど、全体的にはオドオドで、僕の家の玄関に普通にあるものも珍しいらしく、キョロキョロしている。
言い方悪いけど、散歩で知らない所に連れて来られた子犬みたいな感じ。
僕の後から来た葉山が、その男の子を見て、声も出せずに立ち尽くしていた。
その男の子も葉山を見て、ただ見続けていた。
一つ、小さく息を飲むと、この初対面に、葉山は言う。
「初めまして、茉薙、私が静流だよ」
すると男の子はその葉山の顔をじっと見つめて、
「俺、茉薙だけど、今は静流の中にいないんだな」
と自分の胸に手を当てて言う。
そして、葉山の顔をじっと見つめて、
「だから、初めましてなんだ静流、俺が茉薙だ」
互いに、距離を詰めることもなく、ただジッと互いの顔を見つめ合う。
静流と茉薙。
彼らが初めて得た『距離』を、まるで確認しているように、そしてそれを喜ぶように微笑む葉山に、どこか照れるみたいな、それを未だどう捉えていいいかわからないっていうそんな感じの茉薙だった。
僕はこの時、初めて彼らの抱えていた問題が綺麗に消えて行くのを実感できた。