第268話【新たなる救いの妹はまさに神】
葉山に、僕と結婚すれば、大好きな母さんは薫子さんのモノ、的な事を言われて木石の様に思考停止する、いや思考が錯綜しすぎてる薫子さん、真剣と茫然自失な間な感じで、僕の顔をジッと見てる。
そして、多分、思考は七転八倒してるんだと思うだけど、時折、
「ありか? いや、ないない、……いや、ありなのか?」
とか呟き始めた。
「ちょっと、しっかりして、義母は義理の母であって、母じゃ無いから、今とそれほど立場とかわからないよ」
って薫子さんに声をかけるものの、薫子さんから何の反応も無くなってしまう。
腕を組んで、長考に入ってしまった。これ持ち時間全部使ってしまう奴だ。
「邪魔者は消えたわ」
ニヤリと笑う葉山。
うわ、初めて見たよ、そう言う葉山の顔。可愛いけど、美人さんだけど、怖いよ。
そして確信する。
この子、策士だ。
戦っていた時も思ったけど、肝経とかすごいんだ。一筋縄では行かないとは思ってたけど、戦闘以外でもその能力を遺憾なく発揮できる子だった。
多分、性能的に言うならあの鉾咲さん、クロスクロスのろくでもない人ね。と同じ事ができる子だ。
しかも鉾咲さんって当てずっぽな変なところから手掛かりとか来る人だけど、まあ、だからこそ油断しているといいようにされてしまうんだけど、葉山の場合は人の心とか特に願望とか、個人的な物に寄り添うところがあるから余計にタチが悪い気がする。
「さあ、真壁、これでまた2人きり」
え? いるよ薫子さん、自問自答と言うか思考の奈落に落ち込んで使い物にならないけど、今もしっかりいるよ。
そんな葉山の意識は完全に2人きりで、考えたくないけど完全に追い詰められている僕に完全に追い詰めた葉山の形になる。
無理だ。
ここは逃げよう、もうどうしようもない、ここはすでに僕がどうこうできる様なそんな戦場じゃない、僕には無理だ。ここは撤退だ。自分の部屋から逃げるって言うのも新鮮だけど、幸い背に出口がある。
「ほら、こっち見て真壁」
って、ああ、いつもの声で、僕の安心する声で葉山が言うもんだから、思わず安心して見ちゃったよ。
すると、葉山、僕の前で、体に巻きつけていたシーツの前を開いて、
「ほら」
って言った。
今度は明るいから、全部見えてしまうから、いやダメだ、と一瞬僕は目を閉じてその攻撃をやり過ごそうとして、そしてほぼ同時に葉山の本当の目的を悟る。同時に「しまった!」って声が出てしまった。
「逃さない」
その一言と一緒に、葉山は僕の横を最大戦速で駆け抜けて、僕の退路、つまり背にあったドアの前に立つ。
その瞬間に、葉山は勝利を確信していた。
そして僕は、完全な敗北を悟る。
いや、良く考えると、窓とかあるから、まだできることはあるんだろうけど、ここまで綺麗に退路を塞がれるとさ、なんかもう、抵抗できる気がしない。諦めないけど。
「さ、真壁、ベッドに戻ろ」
と葉山が言う。しかし、
「何だ、眠れないのか? 静流?」
ドアの前に立つ葉山の手を掴む、妹の手。
新たな戦力が現れた。
まあ、喜耒さんが入ってきてからドア開きっぱなしだから、そりゃあ煩いよね、妹も起きてくるよね。
「え? 妹ちゃん」
これには一瞬にして完全に毒気というか、何というか、そんな物抜かれてしまう葉山だ。
「いいぞ、一緒に寝てやる、一緒にくるがいい、そして私を抱きしめて寝るがいい」
と妹が言う。
面白い事に葉山は全く抵抗ができないでいるみたい。