第267話【ひとまず邪魔者は排除】
思わず薫子さんの後ろに隠れてしまった。
その様子に、あきらかに苛立つ葉山は、薫子さんにはキツク、僕には甘い声でいうんだよ。
「ちょっと、なんで喜耒さんの方に行くの? ほら、怖くないよ、何もしないよ」
嘘だ、絶対に嘘だ。
僕が薫子さんの所と言うか、その足元に隠れるように身を隠していると、
「もう、出てってよ、喜耒さん、邪魔」
と薫子さんに食ってかかる。
「こんな状況を放っておける訳ないだろ、一体何をしている、いい加減にしろ」
すると、葉山は、
「何って、そんなの決まってるじゃ無い、私と真壁は」
「言うな、聞きたく無い!」
「自分か聞いて来たんじゃない、ね、真壁」
僕を味方に引き込まないで、僕は1人で寝たいだけだから。
薫子さんは、そんな僕等を交互に見て、一つため息を大きくついて、
「だいたい、今日の今日だぞ、まだ数時間前の話だぞ、あの戦闘から良くそんな気持ちに持っていけるな、どんなメンタルしているんだ全く」
ってまるで非常識な人を見るみたいに言い放った。
すると、葉山はまるで、『マルッとお見通しなんだからね』って顔して、そんな態度で、
「そんなこと言って、私、知ってるんだからね」
と言い放った。
僕じゃなくて、薫子さんに言っている言葉なんだけど、何を? ってなる、それは薫子さんも同じだった。
「何を知っているというのだ、葉山静流」
「喜耒さんだって、真壁を狙ってるんでしょ?」
「?????」
「?????」
最初は僕で、次は薫子さんね、2人同時に首を傾げてしまった。
その姿を見て、さらに葉山は不満を爆発させる。
「ほら、仲良しじゃん」
「いや、これはだな、葉山静流、もう私たちは一緒に生活して長いんだ、気心もしれてくるというものだろう」
本当の事を言っているんだけど、なんか言い訳くさくなるのは多分、こんな状況だからだと思う。薫子さんはそうだよね、確かにそうなんだ、葉山は変な事を言わないで欲しい。
でも葉山は言い切る、否定的に言うんだ。
「一緒に生活って、いやらしい」
「だから、兄弟弟子みたいなものなんだ」
「兄弟弟子って、いやらしい」
「お互いに今日花様から剣技をだな」
「剣技っていやらしい」
もう、なんでもいやらしんだな。
そんな感じなんだけど、これはどうもアレだね、俗に言う話を聞く気がないって言うか、聞くつもりは無いって感じだね。似たような物だけど、後者の方がタチが悪いよ。
「頼むから変な言いがかりはやめてくれ、私と真壁秋の間はお前が考えているような事は無いんだ」
もう、すっかり葉山のペースで会話が進められてしまっている。真面目だからなあ、薫子さん。こんな葉山の言葉に一々きちんと答えているよ。
ちゃんと、葉山に伝えようとするんだけど、どうしてか葉山の怒りは収まらない。
「ホントかしら?」
「本当だ」
葉山は、流石に僕の前はともかく同姓ながら薫子さんの事を考えたのか、僕のベッドからシーツを奪って体に巻きつける。そして、
「だって、喜耒さん、真壁と結婚すれば、大好きな今日花さん、本当のお母さんになるもんね、そりゃあ狙うよね」
って言った。
おいおい、何を馬鹿な、って、そう言おうと思って、ここは薫子さんと共闘して言い返そうと思って薫子さんを見たら、
「……え?」
って素で驚いていて、もう、顔がさ『その発想は無かった』って言ってる。間違いなくそう思ってる。
だかた完全に虚を突かれた形になってしまう。防御力ゼロの柔い部分に凄いの入った感じになってる。
かっちり、がっちり仏像の様に固まってしまう薫子さんだよ。