第266話【ここ最近、一番のピンチ】
葉山はうっとりしながら言うんだよ。
「私を大切に思う気持ちが、真壁からあふれてくる絶対に失ってなるものかって感情がどんどん私に注がれてくるの」
いや、もう、本当に、マジやめて、ちょっとごめん。確かに思ったよ、でもあの時って所謂、極限状態だよ、で、僕は僕の友達を助けたいって、それだけは思い続けていたから、もうどうしようもないじゃん。仕方ないじゃん。思ったけど、それを葉山に言われると、僕としては死を通り越すくらい恥ずかしい。葉山は嬉しかったかもしれないけど、僕はもう何処かに消えてしまいたいけど、現実問題として布団によって葉山は固定してくれてるから何処にも行けない。
「なんで顔そむけようとするかな?」
いや、だって。
ああ、そうか、それで、葉山は惜しみなく、こんな僕にその肢体を見せてくれてるのかな、まあ、確かに葉山くらいの美少女にその裸を見せてもらうのは確かに物凄い対価だね、お釣りが大きいなあ。
「うん、わかったから、もういいよ、ありがとうございました」
「なんに対するお礼かな?」
「もう、十分見たよ、その、綺麗な葉山の」
すると、葉山は上半身を起こして、
「まだ何もしてないじゃん」
と言った。そして腰に手を当ててなんかしてる。
いやいや、もう十分です、っていかけて、その前に何してるんだろ? って思って。
「何してるの?」
ああ、声が裏返っちゃった。だって何をしているのかちょっと見えたから、もう完全に僕のキャパ超えた状態だよ、これ。
「何って、バンティー脱いでるの」
ああ、下はきてたんだね、って? え?
「な、なんで???」
「なんで、って…」
その質問の答えを、僕にどう伝えようと、一瞬、まるで飲み込むように考え込んで、そして頬を染めて彼女は僕に言った。
ちょっとモジモジしながら可愛らしく葉山は言った。
「だって、着てたらできないでしょ」
って言った。
物凄い可愛い顔なんだけど、素敵で優しくて、何よりも暖かいって表情なんだけど、どうしてか僕には、まるで小動物を追い詰める大型の捕食者が最後の追い込みを見せている、そんな狩猟者の、肉食獣の顔に見えてしまう。本当に食べられるかと思ってしまう。
うああああああああああああああああああああ!
「いい加減にしろ!!!!」
怒鳴り声に、僕の体が軽くなる。
同時に部屋の中が明るくなってる。照明つけてくれたんだ。
ああ、姉、じゃなかった、薫子さんが乱入して葉山を蹴り飛ばしていた。僕、自由だ。解放されたよ僕。
「何か話したいところがあるのだろうと黙って見ていたら、葉山静流、お前、何をするつもりだったんだ??!!」
「痛い〜」
と葉山は葉山で、蹴られた部分、腰あたりかな、抑えていた。
「黙って見守ろうと思ってはいたが、真壁秋の部屋に近づく度に服を脱いでいるときは違和感を感じたが、まさかこんなことをするとは」
いや、もうその時点で止めてよ薫子さん。
「なんで邪魔するのよ!」
葉山は本気で怒って真壁家の長女に食ってかかる。
「お前、私がのぞいているのわかってて強行したろ」
「別に邪魔しなきゃいいって思ったもん」
「恥知らずもいいとこだな、みろ、真壁秋はすっかり怯えているぞ、多分、この男をここまで追い込んだのは、後にも先にもお前くらいだぞ」
「え? 大丈夫? 真壁、何があったの?」
って裸のまま近づいてくるから、思わず薫子さんの方に逃げてしまう僕がいる。しかも普通にベッドから飛び降りてヒラリって感じだったんだけど、完全に腰が抜けてるよ僕、這ってるよ、僕。