第262話【拙い僕の願いに神々は微笑む】
ただただ懇願。もう他の言葉が出てこないくらい必死。
「お願いだから、葉山を助けて、これじゃあんまりだよ」
叫びたいけど、情けない事に声が出ない。拙い、幼児の願いの様。
ヘナヘナとした懇願する言い方になってしまう。
「助けるぞ、兄」
妹が言うんだ。
と言うか、どうしてここに妹がいるのかわからない。
「私が助けてやるぞ、兄」
もう一回、いつものなんの根拠も無い言い方で自信に満ち溢れた言い方で言う。
「なんだよ、基本お前達は非介入じゃなかったのか?」
「そうだな、非介入だ、でも兄には介入するぞ」
「どんな理屈だよ」
カズちゃん呆れているみたい。そして、
「お前らはいいのかよ、1人は完全に裏切ってるぞ」
と言うと、
「それを言ったら、私もその1人ですよ、それに不干渉を言い出したら私たちは既にグダグダですよ」
あれ?? アモンさん?
「是非もないっすね、秋さんがそれを願うなら、俺はそれに従います、でもまあ、あの時の秋さん程じゃあなかったのがちょっと不満ですかね、まあ本気の秋さんを出せるのってのは過去も今も俺だけですけどね」
なんで角田さんがいるんだ?
言っている意味もわからない。
最後にシメントリーさんかな、真希さんに確認する。
「なあ、真希はいいのか?」
「静流ちゃんはいい子だべ」
「ああ、でも立場的には」
「静流ちゃんはいい子だべ」
「あんたにだって、立場があるだろ?」
「静流ちゃんはいい子だべ」
「いや、それはいいんだけど」
「静流ちゃんはいい子だべ」
「だから、それはいいんだけど」
「静流ちゃんはいい子だべ」
「ああ、もう、わかったよ、いいよ、一応私だって賛成だよ、でも対抗意見って大切だろ? 私だけ悪役にすんなよ!」
すげー、真希さん力尽くで押し切ったよ。
「じゃあ、運営と管理は共に満場一致ってことでいいね、春夏?」
「はい、許可します、私は彼女、葉山静流という現象を許し、葉山静流と茉薙の両名を受け入れます」
春夏さんもいたんだ。
で、その言葉の意味とか、彼女のこの時点での立場みたいな物が僕には全くわからないけど、僕は思うんだ。普通に、自然の流れで思う。
春夏さんが許可してくれるなら良かった。
それだけ思う。
「秋くん、たくさん頑張ったね、ごめんね、たくさん痛かったよね」
って春夏さんは言う。未だぐったりと床に転がる僕にいう。それはまるで天井からの声みたいに響くんだよ。
いいよ、約束だからね。
?
なんだ? それ?
「うん、わかってる、秋くんはいつも私のために頑張ってくれるから、私、嬉しいの」
そして、僕にだけ、届く様に、とても優しい声で春夏さんは喜びに満ちた声で僕の耳元でそっと囁く。
「もうちょっとだね、秋くん、『世界を一撃で滅ぼす力』に届きそう」
え?
顔が見えない春夏さん。
倒れた僕の耳元で春夏さんの息遣いを感じる僕はわかるんだ。
とても嬉しそう。
あまり感情とか表さない彼女の喜びを感じる。
そして、その言葉に秘められている彼女の絶対の意思。揺るぎようもない決意みたいな物が僕の心に再確認する様に降りて来る。これこそが本体だって、僕に、これこそが本領なのだと僕に再度刷り込む様に。
「何も知らない秋くん、何も聞いてはダメなの、全部、秋くんが知って、秋くんが判断するんだよ」
春夏さんはそう言った。
「私の為に強くなってくれる秋くん、私は出来ることは全部する、秋くんが願うのなら、なんでもしてあげる」
春夏さんはそのまま、僕の体を抱き起こして、
「それがどれだけ世界を改変することでも、例えば、どれだけ人が死んでも、生きても、私には関係ないの」
そして僕にとっての絶対的な存在は、まるで天真爛漫な無垢な天使の様に、そして、肝経の底の見えない全てを知り尽くした妖魔の様に妖しくそして女神の純粋に微笑む。
「だって、私は秋くんのものだから、秋くんは私のものだから」
そういって、春夏さんは自分のオデコをぴったりと僕の額につけて、こう言った。綺麗な声をかすれるように小さく、僕だけに聞こえる様に言うんだ。
「これだけは変わらない、何が有っても変わる事がないから」
かつて、二人で混ぜて分けて、だから、知ってる。
何も知ることはできないけど、彼女はいつだって、僕の味方なんだ。
それだけは揺るがない事実ってことを僕は知ってるんだ。