表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
512/1335

第259話【蘇る殲滅する響歌】

 そして母さんの為に作られた剣は今は僕に伝う、いや、もうずっと伝っていたのかもしれない。それに僕が気がついていなかっただけだ。


 そして、何より僕はようやくここに来て初めてこの部屋の中に母さんの息吹を感じたんだ。


 ある筈のない、剣と言う、単なる武器の命を模した伊吹が、一つ一つは空気によりちょっと重くくらいな、そんな意思を真似るものが、一斉に僕に語る。


 ううん、見せてくれる。


 かつて、この部屋で起こっていた事。


 ああ、そうか、かつて、母さんもこの部屋で戦っていたんだな、ってそう感じた。


 朽ちた剣達はかつて歌ったんだ。


 何度も、何百回、いや何万、何億って歌を奏でたんだ。


 母さんと共に。


 そんな朽ちた剣達の一瞬の記憶が僕にまるでフィードバックされる様に、瞬きにも似た瞬間、この部屋で起こった出来事が蘇る。


 それはかつての母さんの戦う姿。


 母さんの戦う形が、その生み出していた斬撃が。追う相手が、虚ろに形になって、一瞬その姿が見えた。


 あれ? なんで真希さん?


 そんな錯覚にも似た、まるでフラッシュバック見たな映像の結実は直ぐに消えた。


 ????


 なんで真希さんと母さんが戦ってるんだ?


 そんな事を思いながら、僕は剣を振り上げる。


 この辺かな?


 ああ、ここだ、これでいいんだね。


 僕は片手で葉山を抱いて、そんな格好で、何処とも無く、狙う事なく、気持ち的にはとても簡単に最短距離で振り抜く。


 空間を撫でる様に、まとわり付く空気を剥がしてゆく様に、適当な袈裟斬りみたいに適当に振る。


 僕の歌は、僕の剣から、たった一つの接した、僕に襲い落ちて来る一本に触れる。


 剣は鳴る。


 いや、僕の耳には多様な音階になって届く。


 確かにこれは『歌』だね、剣の『歌』だ。


 まるで、僕持つ剣が腕まで消失してしまった気分。


 かつて、母にへし折られて、畳まれて、僕の中にガンガン押し込まれていた僕の中から物が溢れ出して、形になってゆくイメージ。


 もう、これ以上ないくらい形になって止まる事なく僕の外側に今初めて排出し続ける。


 だから僕の意識とか、気持ちなんてとっくに置いてかれていて、その一撃は形になる。


 僕の剣が生み出す響く歌は、室内に斬撃を、そして殲滅を撒き散らす。


 この部屋に鳴るのは何年ぶりなんだろう?


 響くは、剣の歌。


 それは一撃必殺追いつくことのない境地。


 一瞬殲滅。


 かつて、『凶歌』と呼ばれた一撃。


 母がこのダンジョンを去ってから、初めて鳴る歌。


 僕の体が、僕の腕が、僕の指先が、その力を伝えるこの剣が歌う。


 蘇った伝説がここに顕現する。


 僕を、僕らを襲う圧倒的な億を超える剣が刻まれ始める。


 それは、まるで敵対するどころか、攻撃する自身以外の存在などを許す意思など存在しない、欠片すら残す気などさらさらない。


 剣の歌が攻撃の形になる時、そこに自分以外の敵味方の判断などはなかった。


 自分以外の全てを殲滅する攻撃、灰燼と化す一撃は範囲も関係なかった。


 膨らむ億を超える剣の一本一本に伝搬してゆく僕の歌、剣の歌。


 すでに命を失い、歌い終わった剣達を全て吹き飛ばす。


 目の前にあるものの、周りにあるもの全てが殲滅対象になる。


 だから、ここに倒れている葉山もそうだ。


 自身の放った攻撃の威力の前に僕は焦った。


 葉山が、僕の『歌』で切り刻まれてしまう。


 その時だった。


 母さんの、あの傷だらけの手がさ、真っ赤な手がさ、僕の視界に出て来たんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ