第256話【すでに終わっていた最後の戦い】
崩れる様に、まるで天地を失ってしまったみたいに葉山は倒れた。
間に合わなかった。
すでに倒れてしまった葉山に向かって駆ける。
自分が何を叫んでいるのかわからないくらい慌てふためいて、僕は葉山に駆け寄る。
そんな中、一瞬だけ脳裏をよぎる自分の考えに、その予想を必死に否定する。
きっとこの戦いが終わって、何もかもが全部終わったら、僕と葉山のこの戦いを、この死闘を、『僕の為に彼女はいた』そしてこうも言う『彼女は僕にとって自分の中の能力を引き出す為の捨て石』『かませ犬』そう捉える人がいると思う。僕だってそうだ。思うんじゃなく、それは現実で葉山すらそう思ってる。いや、そうしているんだ。
実際、多分、僕の知らない僕の事を知っている僕はそう思っていた。
だからきっと他にもいると思う。
このダンジョンの事情を知る人。
ある程度知っている人。
色々な立場な人。
考えたくないけど、春夏さんですらそう思っている節もある。だから今回は邪魔しないんだと僕は思っている。
そして、だから僕の為にその身体を差し出す葉山本人すらもだ。
僕の、あの力を前に、どこか喜んでいた気すらするんだ。自身の放つあの規模の攻撃を次々と避けたり弾いたりする僕を見て、絶望もしないで、普通に話しかけたりしてだ。
おかげで僕は、今までに敵対したどんな敵よりも僕の知らない何かを引き出せていた。
母さんに折りたたまれて僕の中にある技術も経験も全部だ。
未だ知らない過去やら、そしてどれほどの数眠んっているスキルとか、初めて自覚できた。
僕にとって、葉山はそんな敵だ。
僕を開示してくれた敵。
加減して、調整して、上手に僕に襲いかかって来てくれる優しい敵だ。
僕を殺すっていいながら逃げ道を用意してくれたり、攻撃力を調整してくれたり、時に応援してくれたり、絶妙なさじ加減だよ。
もちろん、これらは無料じゃない。
代償として僕は葉山を終わらせないといけない。
優しい葉山を終わらせる義務みたいな物があるらしい。
だから僕はここに立っている。
そして、そんな僕は倒れた葉山に駆け寄って、抱き上げ、
「葉山! 葉山!」
って情けない声出して叫んでる。
葉山は直ぐに目を覚ますんだけど、
「ああ、ごめん、真壁、私、どれくらい寝てた?」
寝るって…、気絶だよ。
そして、一瞬だよ。って言い掛けるけど、その開いた目が僕を見ていないんだ。何と無くだけど、僕の声のあたりをそれとなく見ている。と言うか目がその方向を向いているってだけで、視点がまるで会ってない。
お前、目が…
葉山僕の手からゆっくりと立ち上がって、
「よーし、行くよ真壁、なんかちょっと体が軽いよ」
なんて言い出す。
フラフラと立ち上がって、そんな風に、言う。
僕はそんな葉山の肩を持ち、僕の方を向かせようと肩をつかもうとするけど、いいや、僕がそっち行く。
「大丈夫、見えてるよ、ちゃんと真壁を見てる」
うん、そうだね。いつも葉山は僕を見てる、いつだって気遣ってくれる。
僕は、そんな葉山の視線の方に若干の移動をする。
そして、葉山は言うんだ。
「悪いんだけどさ、もう一回くらいしかやりあえそうもないから、これで真壁を倒すよ」
「うん」
「今、真壁は私の前にいるでしょ?」
「うん」
「ちゃんと私の近くにいてくれるよね?」
「うん」
「じゃあ、ここで、この距離でやろう」
「うん」
悲壮感も無く、屈託も無い葉山の笑顔を見て、僕はもう泣きそうになる。
そう言ってまた倒れそうになるから、僕は葉山を支える。
なるべく体を離して、腕だけで肩を支える。
「じゃあ、最後、これで決めるから、真壁、上手に私を倒すんだよ」
葉山、お前、一体、どんな敵なんだよ?、お前は。幼児を優しくゲームに誘うお姉さんかよ、「ほら、これで君の勝ちだよ」って言われている気分だよ。
しかし、僕は次の瞬間に戦慄した。
周りの剣が無いんだ。
あれほどまでに敷き詰められた、有象無象にあった剣がなくなって、綺麗に床が見えてる。
僕は、その時、空を、顔を上げてその中空を見て唖然とした。
なぜなら、そんな彼女の攻撃がおかしな事になっていたから。今までの加減や手抜きなどを微塵もなくなっていた。
次の攻撃はすでに整っているんだ。
多分、この室内のゴミの様に打ち捨てられたほとんどの剣で来る攻撃に、その目の前に広がる光景に圧倒された。
言い方が何だけど、剣で出来た『入道雲』というか感じで、空間が高く高く僕らを真下に全で打ち捨てられた剣によって満たされて行く。




