第254話【譲らない決意、僕vs僕】
シーンとした静けさの中に、僕の、今は外にいる僕の怒鳴り声だけが響いた。
「本当に、いい加減にしろよ! もう時間がないんだよ、早くしないと何もかもが手遅れになるんだ!」
本当に叫ぶ叫ぶ、
《なあ、落ち着けよ僕、ちょっとは冷静になろうぜ》
って提案してみるも、
「誰のせいだよ!」
って怒鳴られるから、こっちもいい加減腹が立って来て、
《なんで僕が僕に怒鳴られないといけないんだよ!》
「お前がバカな事ばかり言うからだろ!」
凄い怒ってるよ、外の僕。
「いい加減にしろよ、お前には自覚がないかもしれないけど、これにはダンジョンだけじゃない、北海道ダンジョンには全世界の人類の行く末とかも関わっているんだ」
怒りがこみ上げる。
だから、僕は僕に支配されている僕の口を奪えた。
これだけは言わせてもらう。
「そんなの知った事か! 僕は葉山を助けるんだ!」
《人類の行く末だって? ダンジョンの理だって? 運営? 管理? そんなの知った事か! 僕は葉山を助けるんだよ!》
「もういい、全部終わらす、全部消し飛ばす、周りなんて知ったことか!」
くそう、また口を奪われた。
そう言って僕は一度、攻撃を再び開始する葉山と距離と取って、
「出ろ! 宇宙開闢の光!!!」
右手の手の平を上に向ける。するとそこから、直径20センチくらいの光の玉が姿を表す。
うわ、これ、ヤバイやつだ。
今、僕は外の僕が何をやろうとしているのか全くわからないし、知らないし、見たこともないけど、これは相当ヤバイ事をしようとしているって事だけはわかる。
《おいおい、何しようとしてるんだよ?》
「このまま中階層全部吹き飛ばしてやる」
《ダメだろ、そんな事したらみんな死ぬだろ?》
「知った事か、管理の方でなんとかしろよ、僕はもう止まらない」
とか言い出す。なんかキレた子供がおもちゃ箱 ひっくり返すみたいな言い方だよ。駄々っ子かよ、癇癪かよ。
あ、でも。
ちょっといいかも。
このスキル、相当に集中力を使うみたいで、左手の感覚が、肩のあたりまで戻って来ている。そして外の僕にはそれに気がついてはいない。
「じゃあな葉山さん、未だこのダンジョンで発現した事のない『最後の魔法』で吹き飛ばしてあげるよ」
と葉山に宣言する。
そんな宣言に僕らの戦いを見世物しにしていたギャラリー達が騒めく。
「全員退避!」
真希さんが叫んでる。比較的真面目に叫んでる。
「魔法スキルのある者は逃げないで前に出ては魔法防御を!」
此花さんだ。
逃げ出す奴とかもいるんだけど、だけどこの部屋の入り口一つしか無くて、しかも普通に狭いから大パニックになっている。
「あはは、全部吹き飛べ! 煌めけ『超新星』の…ドベバ!」
最後の方は魔法スキルの『導言』じゃないよ、僕が殴ったから、外の僕の悲鳴というか呻きね。
左手が完全にフリーだったから、思い切り殴った。
つまりね、僕が僕に勝ったって事。
よく言うじゃん、自分に勝て、とかさ、今、まさにそれを体現たところ、そっか、自分自身に勝つって言うのはこういう事を言うんだね。吹き飛びながら実感してる僕だよ。
でも、これ普通の人は無理だよね。普通はさ僕の中に僕は隠れてないからね。
外の僕と言うか僕の体は綺麗に飛んで、そのまま倒れる。
よーし、体の自由が戻って来て、なんとか葉山もみんなも守れたぞ、そして感覚が、ああ、痛い痛い、思いっきり殴っちゃったよ、歯とか折れたかも、って気がついたら、「ザマーミロ!」って言いながら自身は剣が敷き詰められてはいるけど比較的安全な床で左の頬を抑えて、のたうち回っていた。
すると、今度は悲鳴??
あ、違った、真希さんが笑ってるんだ。