第253話【譲らない僕、あきらめに僕】
気持ちが暗くなる。
でも僕は、今は表面に出ている僕は言う。
「逃げるなよ、何も知らない呑気な僕はこれからもっと酷くて嫌な目に会うんだぜ、葉山さんの事なんてそれに比べたら比較的軽い方だよ」
そして、
「何よりそれが彼女の望みなんだから、まだ救われてるよ」
と言った。
《いや、ちょっと待ってよ、それでさ、そのメディックでさ、葉山を救えない?》
僕は言った。良い考えだよ、僕の中には僕の知らないスキルとかまだあるんだろ?
だったら、それで葉山を救えないかな?
「無理だ」
即断される。
《なんで?》
「残念ながら、彼女の存在がこのダンジョンの理から外れてしまっている、僕は確かに唯一無二の強力なダンジョンウォーカーだ、でも単なる『参加者』なんだよ、それを判断するのは『管理』の方だ、もちろん『運営』側もその判断に加わるけど、彼女を生かしておこうと判断する可能性は低いよ」
《なんとかならない? 葉山を助けたいんだ》
僕は自分に自分で懇願する。もうなりふりなんて構ってられない。葉山を助けたんだもん。
すると表の僕が言う。
「彼女の存在が、このダンジョンの違反行為で構成されているって言っても過言じゃないんだ、ダンジョンが今まで生かしておいたのも、多分、今こうして僕と対峙するためだろうし、その役目を果たしてくれているって考えても、彼女の存在が許されるわけがない」
《でも、それは葉山が悪い訳じゃないだろ?》
「前例を作る訳にいかないんだよ、わかるだろ? このダンジョンは、北海道ダンジョンは、子供の不幸は許さない」
《じゃあ葉山も助けてやろうよ、葉山になんの罪もないだろ?》
「第2第3の彼女を生み出すのか? その前例を作って、これからもっと不幸な人を増やすつもりか? 彼女を作った人間は倫理なんてないぞ、子供が何を叫んだってメスをその体に入れるぞ、その全てに僕は責任を持てるのか?」
僕の体内で行われている会話。
その間にも葉山との攻防は続いている。
剣の支柱がドシャドシャと降り注いて来るのを、僕の知らないスキルで割と簡単に避けたり、防御している僕は、戦いに集中しているように見えて実は中で僕と激しく僕と口論している。
《マジで頭固い奴だな! いいから葉山を助けろよ!》
「だから、その判断は僕には出来ないって言ってるだろ、本当に分からず屋だな」
《ちょっと葉山に近づけよ、助けられそうだって伝えるから》
「だから出来ないって言ってるだろ!」
《出来そうじゃん、いっぱいスキルあるんだろ僕、良いよ使い方教えろよ、僕がやる、葉山を助けるんだ》
「いい加減にしろ、それにスキルだけじゃ彼女を助けられないんだよ、『生』と『死』にはこのダンジョンの『理』が必要なんだよ、だから結局は、管理と運営しか出来ない事なんだよ」
《やって見ないとわからないだろ!》
すると遂に僕は叫んだ。僕じゃないくて、今は外にいる僕ね。
「いい加減にしろ!!!!!」
その声の前に、葉山の攻撃も、ギャラリーの雑踏も消えていた。