第251話【君は僕だよ、僕の中の僕】
《ほら、よそ見すんなよ、こっち集中するよ》
ああ、そうだった。
《ほら、見て見なよ、君の委員長さ、僕の異常加速に気がついて対応しようとしてる、よくもあんな化け物を作り出したよな、こっち側のヤツらも必死だね、結果的とは言え感心するよ》
葉山を化け物扱いすんなよ。
《いや、化け物は僕らの方さ》
自覚は無い、でも今の状況を考えればそうかもって思う。
《母さんの鍛え方も流石だよ、体の方も【神化】も順調に進んでいる事だしね、これならこの状態で動いてもなんとも無いだろ》
知らない言葉が出て来たぞ。
《そのうちわかるけど、つまりはさ、北海道ダンジョンに対して、僕の体が最適化して来ているって意味、強力な力を振るうならそれなりの肉体が必要なんだよ、今回、許可が出たのって、それを『試す』意味もあったんだ》
僕の乖離して記憶の僕は僕の知らない僕の事をベラベラと喋る。
その情報の多さに僕の頭はついていかない感じで、自分の乖離した記憶とは言え流石に焦り始めてしまう。
《本当に、彼女、君の委員長さ、丁度いい『障害』だったよ、試す為に僕らの前に現れてくれたみたいな、もしかしたらダンジョンはこの時の為に彼女を生かしておいたのかもね》
僕の中の僕の言うことに賛同はできなかった。
そんなことがある筈がない。なんだよ、ダンジョンの意思って? ここって生き物なのか? そんな訳無いだろ。
もし、例えそれが本当のことだとしてもそれを認めるわけないだろ。
僕にとっては葉山は、そんな捨て石みたいな存在な訳である筈がないんだ。そんな酷い扱いできるわけがないんだ。
それじゃあ、今まで葉山を実験とか開発とか称して、そんな扱いをしようとする、もしくはしようとしている奴らと何も変わらないじゃないか。
自分が言っている事とはいえ、なんかちょっとムッとする。
《いいよ、そのまま見てろよ、どうせ今の君じゃうまくは使えない、このまま僕っていう仮想人格を使っても、あの委員長を倒す時間は十分ある、今の僕主観の時間感覚で300秒くらいなら大丈夫だ》
行きがけについでに、って感じで簡単に言われる。
気がついた時には僕は体の自由を失っていた。強制的に切り替えやがったな。
《何してるんだよ!》
「おお、動く動く、思ったよりは状態は良さそうだ」
僕は、と言うか入れ替わった僕は剣を軽く振って。
「じゃあ、終わらすよ」
そう言ってから、
「もう彼女は限界を超えてしまってるよ」
そして、
「彼女、よく立ってられるよ、頭の中は身体中の『悲鳴』を受け止めて、もう苦行とも言える苦痛を1人で受けてるんだぜ、早く楽にしてやらないと、いくらなんでも残酷だ」
僕らが見つめる葉山は微笑んでいた。
その表情は酷く辛そうだ。この前、葉山のアパートで見たあの時の顔に近い。
「何が彼女を支えているのかわかるだろ?」
《僕を倒すとかだろ?》
なんだろう、僕は僕にがっかりされったって感情が流れ込んでくる。本当にヤレヤレって感じ。なんだろう、自分自身に呆れられるって、思ったよりもショックが大きいな。
「ほんと、僕は救い難いね」
とか言われる。
その瞬間、時間が解き放たれる。
音が、感覚が、いつもの状態に戻って来る。
同時に、多頭の巨竜に、剣の柱に襲われる。
轟音と共に、僕の視界は全て数千数万、いや数百万の剣に覆い尽くされる。
圧殺!
正にそんな感じだった。
そして、その凄まじい数の剣達、その一本が僕に触れるか触れないかの刹那にそれは起こった。
見た目に言うとね、視界が突然開けた。
剣が、僕を埋め尽くす剣が瞬間に無くなった。全部、綺麗に無くなった。
僕を全方位から包む凄まじい数の剣の包囲に穴が空いたって感じではない。
僕を包んで、刺して、潰すくらいの勢いの剣が突然、全て消えた。
『暴虐の護翼』
僕のつぶやき、そして、あれだけ集まっていた剣は全て八方に吹き飛ぶ。
その吹き飛び方の速度は、正に消えたって言っていいほどの勢いだ。
ギャラリーの方まで飛んでしまって、みんな各個に防御したり避けたりしてる。悲鳴とか聞こえてくるから被弾した人もいそう。死んでないといいけど。
ああ、真希さんなんか大喜びしてるなあ。なんか超ウケてる。




