第250話【蘇るのは記憶、語りかけるのは僕?】
この辺の事実とか記憶って、まだ今の僕が知ってはダメな筈じゃあ……、何も知らない僕は、知らないでいい僕の事情を心配してる。変な感じだ。
いいのかな? ってその許可を持つ人をギャラリーの中から探す。
春夏さん、微笑んでいる。
ああ、そうか、もういいんだ。
別れてしまった僕の意識は別々に違う事を考えて、一つは知らない僕。そして一つは知っている僕。同じ思考で同じ声で鬩ぎ合っていた。
僕の心、違うなあ、きっと頭の中に詰め込まれていて押し込まれていた何かが我が物顔で姿を、その意識を表した。
これには僕もびっくりした。
なんだよ、これ?
と言うか誰だよコレ?
そいつは僕に言うんだ。
《やあ、僕、大分苦戦しているみたいだね》
その沈めた筈の意識の深淵から除き込むあの鮮血の様な禍々しい意識が僕の顔をして、そんな風に話しかけて来る。
いや、正確には僕じゃないな、見た目にとても幼い僕だ。だからかつての僕って事だ。
視覚的にいるんだ、目の前に。
多分だけど、これ、4〜5歳くらいの僕かなあ? あまり小さい時の自分なんて意識した事ないけど、きっとそうだと思う。
そいつは言う。
《先に言っておくけど、君の同級生さ、君を殺す気なんて全くないよ》
と言う。
今にも僕に襲いかかろうとしている何本もの剣の柱を指差して言うんだ。
《よく見てよ、ちゃんと彼女の方に向かう所に『道』が残ってるだろ?》
まあ、止まっているからって言うのもあるけど、冷静になってみると確かにある。薄い場所、2〜3回弾けばこの剣に埋まる世界を突破できそうな場所、そしてそれは葉山への最短距離でもあるみたいだった。
《いつもの君なら、その隙を突いて、一撃なパターンじゃないか、同級生に同情するのはいいけどさ、そこはしっかりしてくれよ僕、死にたがりの君の同級生はさ、最初から君の殺害なんて考えてはいないんだよ》
お前は誰だ?
小さい僕は言う。
《僕は僕だろ》
なんだよ、禅問答みたいだ、ちゃんと説明しろよ。
《簡単に言うとさ、僕は僕で、乖離された僕なんだ二つを混ぜて分けたじゃないか、忘れてるのか?冷たいヤツだ》
僕も葉山と同じキメラって事なのか? 衝撃の事実だよ、わからないよ、説明しろよ。
《確かに僕は彼女に似ているかもね、と言うか、ベースは母さんだけど、スキルって面で言えば彼女自身が『僕ら』いやこの場合は春夏さんを人工的に作ろうとした結果なんだから、似ているのは仕方ないよ》
ごめんな、何を言っているのかわからない。
僕はヤレヤレって顔をして、ため息をつく。
ああ、僕、僕にためため息つかれたよ、ガッカリって顔されたよ。
《あっちは本当に2人いるけど、こっちは1人、だけど便宜上違う人格になっているのは僕である君と完全に乖離しているからさ、そして正確にはそれは性格じゃない、乖離されているのは『記憶』だ》
つまり君は僕の記憶で、僕自身は僕に知らない記憶があるって事か?
《そうそう、いいね、そう言う認識でいいよ》
なんか軽いなあ、幼い僕。
まあ、僕だもんな、その辺は仕方ないか。気が合うかも、流石僕だね。
そして率直に聞く。
なんで?
《そうしないといけないからだよ》
そうなんだ。じゃあ仕方無いか。
《いいのかよ、軽いよな僕》
それはお互い様だろ。
今はそれどころじゃないから、この『乖離された記憶の僕』が出て来たって認識でいいんだとは思うんだけど、それは兎も角、この状況はどうなってるの?
時間とか止めてるとか?
《それはこのダンジョンから拡散する『全て』のスキルの中には流石に存在しないなあ、それとも挑戦して見るかい?》
できるの?
《まあ、なんとか、幾つかのスキルを組み合わせてみれば、やって出来ないことはないと思うけど、今は無いものを求めるより有るもので対応しようよ》
建設的だ、乖離された記憶の僕。
じゃあ、今の状況って?
《超加速だよ、体感速度を1秒を3600倍程度の拡大をしてるだけだよ、スキルである『光子舞踊』の上位互換みたいなもんだよ、見てみなよ、この状況を気がつきもせずに呑気に眺めている人って、多分、真希さんくらいだから》
あ、本当だ、思わず真希さん見ると、まるで全てが凍りついた世界で、1人手を振って応援してくれてる。
《他の人も徐々に気がついて、深階層の常連ならこっち側に来るけど、まだちょっと時間がかかる》
あれ? でも 春夏さんとかは普通に微笑んでるなあ、角田さんとか、妹までも。止まってるって感じはしない。
まあ、あの人たちってデタラメな人達だもんなあ、って思う僕は、僕自身もそれすらはみ出そうとしている今の現実に、今の時点では気がつかないでいたよ。