第249話【絶好のピンチ、開示させるための危機】
……無理だ。
さあ、思いっきり来いよ、って自分で誘っておいて、よーし、正々堂々勝負だ。
って葉山の本気を見たとき、一番最初に出たのはそんな一言だった。
いやね、もう絶対に無理。
なんだろうなあ、もう人と戦ってるって言う気さえし無くなって来た、1人で剣を持って十分に育った台風かハリケーンに突っ込んで行く感じ。
前のって、結局、それなりに凌げたのは、多分、剣が16本くらいだったからって事で、今回、この環境でアルティメットな葉山が茉薙と言うスキルを遺憾無く発揮する状況は、僕が思っていた想像を遥かに超えていた。
剣が動く。のでは無く、見た目に『部屋』が動いている。そんな感じだ。
やる気になった葉山には操る剣に上限がないみたいだ。
しかも茉薙が僕に攻撃しようとしていた形を『蛇』って、剣の連なりをそう表現していたけど、葉山が使用すると、それは『竜』に変わる。あの細い空飛んでいるイメージの和のテイスト溢れる龍じゃなくて、あの野太い西洋の巨の付く『竜』の方ね。
もう、細いってイメージは微塵も無くなって太いを通り越して『山』がそのまま伸し掛かって来るみたいな感じ。
茉薙と葉山の完全融合した、スキルとしての茉薙を使った葉山の攻撃は、凶悪だった。
多分、さっき茉薙にやっていた僕のソードワールドで葉山のソードワールドを壊すやり方、絶対に無理だと思う。
多分だけど数本の勢いは力尽くでなんとかなるけど、物量の前に慣性の法則で押し切られる。こんなの列車を素手で止めようとする様な物だ。
こんなの人1人の力で止められる訳が無い。
「じゃあ、行くよ真壁」
と葉山が言う。
「あ、ああ、うん」
と僕が言う。もうそう言うしかないよね。
ホント、どうしよう。
流石にこれは一回死んだかな、ってもう覚悟する。一回、腕ちぎれても生きてたから、もしかしたら戦闘不能になって終わりかな、って思ってるんだけど絶対に甘い考えだ。
まあ、ダンジョンだから、死んでも死なないから、いいやって思う。
ヒーラー最強のカズちゃんも来てたみたいだし、最悪多分なんとかしてもらえるだろう。
葉山がそうしたいなら、それでいいかって思う。
よし、覚悟した。
その覚悟を待っていたみたいに葉山はその攻撃を開始する。
僕を中心に、葉山の足元から次々と生まれる剣で出来た巨大な柱が僕の方に何本も何十本も飛んで来るそんなイメージ。
これって、多分、砂とか石とかでも死ねる奴だ。
山一個分が全部土砂になって襲いかかって来るって感じだよ。
土砂とかでもそうなんだから、それが壊れているとは言え流石に剣だから、多分、99回は死ねると思う。あ、僕も1引いちゃったな。
僕は初めて諦めたんだ。
もう、いいやって思った。
ダンジョンだから死なないってのもあるけど、痛いのは嫌だけど、葉山の願いっていうか生きている意味だったんだろ? だからもういいやって思ったんだ。
初めて死ぬなあ、って考えていたんだ。
軽い気もするけど、僕はそんなもんだよ、だって、ここ北海道ダンジョンだもの。
そんな軽い覚悟。
僕は常に思っているんだけど、いくら蘇るからって、死ぬよりは死なない方がいいに決まっている。だけど、今回はいい。
でも、自分が悪い訳でもないのに、理不尽にひどい目にあいながらも必死に生きていた同級生の為にって、そう思っていた。
さあ来い、葉山って覚悟した。
覚悟したんだけど、そこでアレが来た。
邪魔が入るんだ。
ああ、来たよ。
いつも何かしらのピンチに陥ったり、自分の中の気持ちが抑えられなくなったときに出るアレだ。
王様のスキルって奴。
それが暴発してしまう前兆(?)みたいな奴。
僕自身がそんなに意識して使った事のない結構なスキルで結果的には助かってるみたいだけど、その後を考えたら微妙になる迷惑なスキルの暴走。
あの赤くて、まるで鮮血にも似た生ま生ましい意思がまた僕の心の奥底から噴き出して来る。
いやいや、今はお前の出番じゃないだろ、って考えては、思ってはいないだろう、いけないだろう、これは僕じゃあないだろう、って押さえつけよう否定しようとする思考の蓋を簡単に吹き飛ばして、まるで僕でありながら僕以外の意識、それは煮えたぎる血潮の様に真赤な何かが奥底から噴き上げて来る。
以前と同じだ。
4丁目ゲート前で理不尽な君島くんさんとかに邪魔された時とかと一緒だ。
いや、違うな。
もっと具体的だった。
何が、いや違うな、何者かがいる、そして出て来る。
今回は許可が出ている。
??????
許可?
どうしてか僕は、ギルドの人達と一緒にいる春夏さんを見てしまう。