第46話【クワガタかなぁ? ミヤマ的な?】
僕はあんまり昆虫とか詳しくはないんだけど、これって、大きさでいうと、昔見たクワガタとかかなあ、平べったいし、でも触覚はここまで長くなかったなあ、体も甲虫とかと違ってしなやかそうだ。
「なんだろ? これ?」
注1)北海道に住む北海道を出たことのない生粋の道産子はゴキブリ(特に黒くて大きいやつ)を知りません。
「ねえ、角田さん、これ何?」
注2)北海道に住む北海道を出たことのない生粋のヤンキーもゴキブリ(ヤマトゴギブリ)を知りません。
「さあ、ドラゴンフライの一種ですかね、地を走るからフライって言わないかもしれませんが、大きさから考えて見るとドラゴンフライの王様とかですかね?」
春夏さんの御御足の周りを走り回るソレを見て冷静に角田さんは答えた。
「いやああああ、秋くん、助けて」
おおっと、春夏さん、ついに僕を抱きしめて来たよ。その状態てピョンピョン飛び跳ねるものだから、何回か飛び跳ねたあと自然の流れ(?)で、お姫様抱っこみたいな形になって落ち着いてしまう。
ズシリと来た!
いや、重くないよ、春夏さんは全然重くない。
春夏さんの御御足がなくなると今度は僕の周りをカサカサと走り回り始める。
なんか、春夏さん、このドラゴンフライの親玉って言うか、地面を走り回るソレが。怖いって言うより、生理的にダメって感じ。よほど昔嫌なことでもあったんだろうなあ、ってそれだけどは分かる。今僕に抱っこされている春夏さん、ガチで震えているもの、そして、現状、春夏さん自身がソレに夢中になりすぎてて全く気付いていないもの。
「秋くん、来る、こっち来る! 走ってる! 秋くん、足元!! クルクルしてる! いやあああ!」
大声で実況中継をしてくれる春夏さん。
「くそ、この、ちょこまかと、なめんな!」
と地面を叩き続けるものの、いまひとつ捉えきれない角田さん。
「角田さん、挟み撃ちにしましょう」
と、僕は春夏さんに抱きつかれたまま、ソレを角田さんと僕で一直線になる場所まで移動した、本当に全く重くない春夏さんだよ、手が痺れて来た。
そして、ゆっくりとソレとの間合いを詰めて行く。
幸い、体は僕らの方が大きい、奴が突然動き出して、その猛スピードで逃げたにしても、もう概ねの逃走経路のラインは予想できるし、体で塞いで対応できる。横に逃げる選択なら、勘で2択で攻撃すれば、確率高の問題で、僕と角田さんが互いに違う方向に行けばこの攻撃方法で必ず倒すことができる。
完璧な作戦だ。
もう、奴に逃れる術はない。
言葉で説明の必要もなく、角田さんは僕が実行しようとしている作戦を理解してくれて
いるようだ。
2人で、ソレとの距離をジリジリと詰めてる行く。
黒光りするソレは、まるで置物の様にジッと僕らの到達を待つように角田さんと僕の中心距離で地面に張り付いている。
ゆっくりとした時間が流れている。
先ほどまでのあの素早い動きが嘘のように、ゆっくりと僕らはその到達点への移動い専念した。
だが、それは、あと一歩というところで激しく変化を遂げる。
あと、一歩、いや半歩といったところで、ソレは動き出した。
僕らの予想する未来から、文字通り飛び出してきたんだ。
その背の羽は飾りではなかったのだ。
ソレもまた、その機会を伺っていた。
僕らが回避できなくなる、その距離に迫るまで、その機会を窺っていたのだ。もしかしたら、追い詰められていたのは僕らの方だったのかもしれない。
黒光りするソレはその体に見合う大きな羽を広げて、空に舞う。
それは正に『飛翔』と呼ぶにふさわしい姿だった。
他の小さなハエじゃなかった、ドラゴンフライが『ブーン』という感じなら、ソレは、『バサバサ』いかにも重いという感じで飛翔を開始する。そう、どういう訳か、角田さんの方はまるでないかのように無視で、真っ直ぐに僕の方に向かって飛んで来る。
しくった!
僕はこの現状、軽い春夏さんをお姫様抱っこしている以上、両手はふさがっている。
軽いけど片手で彼女をお姫様抱っこするのは困難というか不可能で、僕が地を這うソレを攻撃する手段は、『僕の体重+春夏さん(軽め)の体重で踏み潰す』だったので、こうして空を飛ばれると、地面以外の攻撃する手段しか持っていない僕らは全くの手が出ない、しかも守りも無防備だ。軽い春夏さんを抱えたままでは素早く回避することも困難になる。