第246話【わかるよ、葉山、君がどこにいても】
僕を八方から襲うこの件の連なる蛇は、位置的な関係を無視して、互いに速度を変えて、完全に同時に僕を襲って来る。
綺麗な包括的な攻撃。
もう避けられないし、上も塞がれているから逃げようもない。
だから弾いた。
一部の壁を蹴破って外に逃げ出す感じ。
うん、やっぱり思った通りだった。
軽い。
縦列して襲う剣達はそこそこコツはあるものの、その列は一撃で解体できた。
剣の水面の上に落ちた剣は、すぐにまた剣の列を造るけど、一応は対応できる。
これなら大丈夫だ。
前みたいな、一撃の重さなんてない。
あの時みたいな一撃一撃の必殺の重さが微塵もない。
ああ、そうか、多分、やる気がないんだ。
この時点で僕はそう判断していた。
見た目は前と一緒。
対応できている僕。
全部茉薙に任せてしまっているみたい。
何度か攻撃されて、その分を弾いいている僕。
流石に、これには面食らったみたいな顔してる茉薙。
「なんでだよ?」
って言われる。
ほら、次々来いよ。
って手でおいでおいで、すると、
「フザケンナ!」
って、さっきよりも数を増やして僕を攻撃して来る。安いなあ、茉薙、隙だらけだよ。
一瞬、僕を襲う、自身の生み出す剣の列が、僕の姿を隠してしまう。
葉山よりも幼い茉薙はアッサリと僕に一撃のチャンスをくれる。
一瞬の茉薙の視界からの僕の消失。
今度は待たない。
先に行く。
足場が悪いけど、まあいいや。
僕は一気に茉薙との間合いを詰めた。
「うわ!」
子供みたいな驚いた声を出して、茉薙は剣で壁を作って、本人は下がろうとする。
こんな急ごしらえな壁。
規則性も無く、乱立する剣の壁はまるで、子供が本能だけで腕で自分を守るみたいに視界を奪って一応の防御の形を作る。本当に一応だ。これじゃ何も守れない、何とも戦えない。
僕はその壁を素手で破壊する。
もちろん、打ち捨てられた剣と言っても、刃もあるし鋭さは残ってるから、僕の腕はそれなりに傷だらけになる、でも、昨日の夜に、葉山の教えてもらった、彼女の中にある。あの胸のプレートには手が届いた。
そっとそれに触れて、僕は茉薙を、その示された弱点ではなく、肩のあたりをトンって感じで押した。
体重の軽い茉薙はそれだけで、剣の敷き詰められた床の上を小さく滑っって僅かに後ろに下がった。
「何すんだよ!」
普通に怒鳴られる。
つまりはさ、そう言う事なんだよ。
僕の相手は、最初から茉薙じゃないんだ。
もちろん茉薙は強いよ、とても強い。でも違う。
僕の相手は違うんだ。
こんなに簡単に教えてもらった弱点に手が届いてしまうう奴じゃないんだ。
この茉薙からは、完全に静流が抜けている。
「なあ、葉山」
と僕は声をかける。
「これじゃあダメだろ」
僕は言った。
今の攻撃は葉山が死ぬ為の攻撃。
葉山が上手に殺される為の攻防を演出しているだけだ。
葉山の体の持ち主である葉山が、今は葉山と言う体を積極的に使う事をしないで、茉薙だけに任せているだけの、見た目にだけ凄い中身の無い攻撃。
だから軽い。
この前の一撃が無い。
今の僕でも簡単に近づいて、弱点に触れる。
「これじゃ無いよ、葉山」
僕は続けて言った。
すると、今出現している茉薙を押し出して、葉山が出て来て、
「本当に侮れないなあ、真壁は」
ちょっと悲しそうだけど、どこか嬉しそうな葉山の顔。
「私がわかるんだ」
そんな風に呟いた。
「うん」
僕は答える。
「いつからわかってた?」
「気がついたのは、この前の時に、ちょっとあれ?って思った、で、確信したのは今だよ」
「そうか、真壁にはわかっちゃうんだ、私か茉薙か」
本当に嬉しそうだ。
そんな僕としては、とても当たり前のことを言っているだけなんだけど、葉山を喜ばせている要素がどの辺にあるのかちょっとわからない。
まあ、いいや。
あの時、初めて茉薙と戦った時、茉薙のみってのは一回も無い。
全てが葉山の意思で動いていた戦いだったんだ。
で、今のは茉薙ね、茉薙単独の戦闘能力。
茉薙は強いけど、単体では凄く脅威なんだけど、そんなんでも無いんだ。
つまりさ、凄い強力な剣、と言うのが茉薙の戦力で、それ以上でもそれ以下でも無いんだ。
結局は、茉薙って、スキルなんだよ。
葉山に組み込まれた凶悪なスキル。
それは使える人が使ってこその力で、茉薙単体では自身を使う事はできない。せいぜい力の乗っていない剣を飛ばして行くのが関の山で、確かに凄い攻撃ではあるけど、僕にとってはそんなに脅威では無い。
葉山がスキルとして使ってこその茉薙なんだ。