第245話【茉薙ははしゃぎ出す】
こういうことって、つまりは僕の影とかプライバシーとかね、葉山に言われて、やっぱりこれって異常な事なんだって自覚はするものの、既に普通の基軸が大分ら離れてしまっているし、僕がどうこう出来る問題ではなくなってしまっているし、まあ、僕のプライバシーを積極的に消滅させてくれている人たちって、きっと僕の安全を担保するためにこんな行動に出ているってことを考えて、しかも実際に助けられているから、厳しい事を言えない一面もあるって言えばある。
それでも、一度、桃井くんには言ったことあるんだよね、「僕にも1人になりたい時とかあるんだ」ってね。すると桃井くんは、「はい、そうですね」ってとってもいい顔して言われた。
わかってないのかな?って思ったから、「ほら、僕にだって他の人に見られたく無いところとかもある訳だし」って言うと「何を言うのですか秋様、秋様にみてはいけない部分なんて存在しません」とかドヤ顔で言われる。
いや、それ決めるの僕だから、君じゃ無いんだよ。
で、色々説得しようとするんだけど、どこまでも平行線で、最後には、「どうしたんですか秋様、一般人みたいな事を言ったらダメですよ」ってとても心配って顔して僕の方がどうかしているみたいな言い方されて、僕の方も、僕がおかしいのか?ってもう一回基本に立ち返って考えようってなってしまって、いつも有耶無耶になる。
本当に、これ、僕の中で大きなテーマにもなってる。
「あ、ごめん、聞いちゃいけない奴だった?」
って葉山に心配されてしまう。
もう、僕としては明確な答えも出せてないから、なにと言う事もできずに、察してって微笑むしかない。
「大変だね」
って同情されてしまう。ほんと、もうこの話は止めよ。
互いに深呼吸する。
一旦仕切り直し。
目的は果たせたから。僕らの軽めの準備運動は終わった。
体は十分に暖機した。
腕も足も、緩慢に、そしてその先端まで研ぎ澄まされている。
そして、葉山は目を閉じて静かに呟く。
「出ておいで、茉薙、さあ出番だよ」
と。
一瞬の間。
そして、あいつは現れた。
ゆっくりと開く目は、もう葉山のものではなく、それはあの、猫型の肉食獣の様な視線で僕を見つめている。
「やあ、『凶歌』の息子」
と言った。
やっぱり、こっちの子、茉薙は母さんありきなんだな。
そうだ、茉薙には葉山と違いって『日常』が無い。だから、きっとそう言った想いも強いのだろう。
葉山と違って学校に行ったりとか無いんだ。普通の生活は多分、全部、葉山に任せて、北海道ダンジョンでも戦闘だけを担っていたって言うのがわかるんだ。
もちろんそれは茉薙の在り方で、希望なので、つまりは私生活みたいな物は、全て葉山に依存というか任せていたってのがわかるんだ。
葉山の体にスキルという力として組み込まれてから、互いに持つ、この武器を、マテリアルソードを持ってから今は母さんの代わりになってしまった僕を倒すことばかりを考えていたんだと、多分、そこが茉薙の生きている価値みたいなもので、唯一の生への執着だと、そう思った。
茉薙は茉薙で、ようやく願いが叶うって事なんだ。
「やったぜ! 2人きりだ、ようやく邪魔が入らないで俺いっぱい戦える、やっとこいつ倒せる!」
ちょっと前にあった時よりもテンション高いなあ。
静まり返った見物人達とは打って変わって、大きな声で笑う。ほんと、この子の笑い声って雷みたい。
ひとしきり笑い、そして、静まる。そして、
「じゃあ、行くぜ」
茉薙の足元から、今まで死んでいるかの様な剣達が次々と息を吹き返す様に立ち上がる。もう、茉薙、ニヤニヤが止まらないのな。
「ほんと、静流、最高だよ、最高な場所に奴を誘ってくれた、もう、避けさせない、躱させない、最初だ終わりにしてやる」
一呼吸して、
「来い! 血の剣源!!!」
茉薙の足元から乱立する剣達。
その姿はまるで、多頭の蛇の様に頭を擡げて連なり、僕の方にその攻撃の意思を示してくる。
「ははは、どうだ、すごいだろ、これが俺の『ソードワールド』だよ、凶歌の息子!」
見た目というか、形的には、あの時、此花さんの『星の雨』の降り注ぐ真っ最中に金色の宝箱を貫くために用意された攻撃が、今は見た目に複数ある。
それが一気に僕に向かって襲いかかって来た。
ああ、これは避けられないなあ。