第244話【恋人の様に争い弾き合う僕ら】
互いに逆方向に、弾むゴムボールみたいに飛んでく二人。
違ってるのは、割と低い位置の壁に当たっても弾まず張り付き、やがて床に落ちたくらいかな。防御力割と高そうだから死んではないと思うけど。
一瞬の静けさ。
そして、もう会場大盛り上がり。みんな喜んでるから、吹き飛んだ仲間のD&Dの人たちも喜んでるよねこれ。
いかついD&Dの人達、ほぼノーガード、まるで僕らの攻撃に対応できないところを見ると多分、この程度の戦闘能力なんだと思う。
この時点においては、この場において、不意打ちとかは無いから、避けもせず防御すらできないってのが、ここにいる資格が無いってものだと思うから。
本当に、こんな時に口上なんて、僕らを倒したいと思うならとっとと掛かってくればいいのに。
多分、この会場みたいになっている雰囲気に飲まれて行動が劇場型になってしまったんだと思う。お芝居の登場者みたいにね。
脇役ですらないって自覚はなかったみたいだから、とっとと退場願った。
「調子はいいみたいだね」
「うん、昨日の石狩鍋のおかげかも」
と僕と葉山の会話。
これでまた歓声が上がる。
吹き飛ばされた人たちは、ギルドの人たちが片付けてくれた、あ、秋の木葉の人たちも一緒になって片付けてくれてる。なんか小声で「親方様、ご武運を」とか口々に囁いてくれる。本当にこの人達っていつも僕の味方だよね。うん、頑張るよ。
「じゃあ、始める?」
と葉山。
「うん」
と僕。
「ちょっと準備運動いいかな?」
「いいよ、僕も」
次の瞬間、僕らは互いに距離を詰めた。
『友人距離』と『知人距離』の間で、互いに踏みとどまって、互いにその距離で大きく剣を振る。
僕のマテリアルソードと葉山のマテリアルソードの先端が触れる程度に当たる。
この素材ならではの、聞いたことも無いような金属と金属が打ち鳴らす音。
それは、楽器の様と呼ぶにはあまりに攻撃的で、武器の打ち鳴らす音にしてはあまりに美しく響いた。
湧き上がるギャラリー達の歓声。
「うん、わかった」
あ、先に返事しちゃった。
「そう、これが、私の、この剣の間合いだよ」
一呼吸置いてから、
「で、真壁の間合いだね」
と言った。
「うん」
体を最大限に伸ばして、剣を振るう僕らはそのまま互いに体を一回転させて、さらに接近する。
息がかかりそうな程の距離に近づく。
葉山の顔が見える。
笑っていた。
「真壁、楽しそう」
あ、僕も笑ってた。
でも、この時点では確かに楽しい。心踊る。まるで、あの時、クソ野郎さんと時間を決めて戦った時みたいに楽しい。
約束もしていない、まるで約束された様な連撃の攻防がいくつかを繰り返す。
つまり最接近した状態、『恋人距離』での斬り合いをする。
僕が一撃、葉山が防御、葉山が一撃を加えると僕が防御。
それを数十の単位で、互いの体を舐めるみたいに繰り返す。
いつまでも続けられそうな、この攻防だったんだけど、葉山が終了を告げてくれる。
殺意の無い、攻撃の意思が無い、葉山の手が僕の肩をトンと押した。
ああ、そうか、と思って、僕は距離を置くために下がる。葉山もそれは同じだった。
そして、
「じゃあ、始めるよ」
と言ってから、
「あと、その影の中の子、そろそろ出そうね」
って言われる。
え? って思ってると、僕の影の中から、出てきたよ、僕の影の中に居住してるんじゃ無いかって思われる不法滞在ネクロマンサー。
かなり不満げな顔して、
「チェッ、特等席だと思ったのになあ」
って、ギャラリーの方へと、角田さん達の方へと歩いて言った。かなりブツブツ言ってるけど。
「真壁って、いろんな人に自分のパーソナルスペースが侵食されてるよね?、プライバシーとかどうなってるの?」
うん、僕もそれについては考えている。
僕の影に入りっぱなしの桃井くんもそうだし、時たま蒼さんもゼロ距離で僕の背後から現れるし、プライバシーに関して言うなら、春夏さんも僕が言ってない知らない事までも知ってるしなあ、角田さんもそうだね、考えとか読むし、ファンクラブの人達にもいつも写真とか取られても、もう、それが普通になってしまっている感が否めない。