第242話【勝敗のレートは道民の拘り】
「おはよう、東雲さん」
「おはよう、葉山さん」
僕を間に、互いに挨拶する2人だ。
そして、葉山は言う。
「ごめんね、東雲さん、今日は真壁、独占するから」
と、
「うん、いいよ」
と春夏さん。どうやら僕の所有権は彼女にあるようだ。葉山の言葉に否定もせずに、そして許可を出す。
すると、葉山は、
「今日は攻撃してこないのね」
春夏さんは至極当たり前って感じでいうんだよ
「あなたを倒すのは秋くんだから、私は邪魔しない」
って、まったくなんの陰りも無く、そんな言い方をした。
「じゃあ、このまま昇降機で地下に向かいます」
と、雪華さんが、僕を案内しながら、そう言って先導してくれる。
あ、そう言えば、
「雪華さん、真希さんは?」
って尋ねると、ちょっと表情を曇らせながら、
「今、既に現地です、手が離せないと言ってましたので、私が来ました」
ああ、そうなんだ。
エレベーターを降りてから、割と複雑な順路を辿って、僕らはその目的の部屋の前についた。
なんか、もう凄い人。
どっかのアイドルのコンサート会場に入る人が待機するみたいに人がつづら折に並んでいる。あ、鴨月くんが『最後尾』って書いているプラカード持って叫んでる。
「何? これ?」
その答えは、すぐにわかった。
「お、アッキー来たな」
とかなり上機嫌で、僕らに近づいて来る。よく見ると、会場整理、じゃないけどギルドの人たちが会場警備みたいに、集まっているダンジョンウォーカーの人達の整理をしている。
「真希さん、もうこれ以上は入りきりません」
と、相馬奏さんが真希さんの元に駆けつけて、そんな事を言った。
「別会場を設けて、スマホからでも映像でも送信するかなあ」
とか真希さんが言ってる。
もう、何が起こっているのか、率直に聞いてみた。
すると、
「いやあ、事実上の現役ダンジョンウォーカー頂上決戦だべ、昨晩、ギルド公式で一部見学許可って出したら、このザマだべさ」
とか言ってる。
いやあ、僕らの命がけの戦いって、なんかもう完全な見世物になってるよ。
僕の隣では葉山は驚いたまま固まってるし、雪華さんは本当に恥ずかしそうに俯いている。春夏さんは相変わらすニコニコしてる。ブレないなあ春夏さん。
すると、今度は、
「おお、秋さん来ましたね」
と角田さん。
「俺、秋さんに『焼きそば弁当』全がけですから、信じてますから、頼みますよ」
と爽やかに言われた。
「真希さん、説明してもらえます?」
僕はそう尋ねると、
「したっけ、せっかくだから、ギルドのみんなで賭けになって、ならお金はダメだから『焼きそば弁当』賭けるべって話がどんどん広がってしまってな、気がついたら、アッキーたちの賭けの対象が時間やら勝ち方の要素とかが加わって、賭けの単位が『1焼きそば弁当』になって、最高勝者が焼きそば弁当一年分になったんだべさ」
と言ってから、
「あ、『大盛り』と『特大』は無しだべ、味選べないからな」
と、いらない情報を付け足してくれた。
すると意を決したみたいに、春夏さんが、
「私、甘いソース味が好き」
と言った。言って、言い切ったみたいな顔してた。うん、美味しいよね。
そして、葉山は、
「ごめん、私、話についていけない」
と、当たり前だよ、葉山。
「私、『やきっぺ』派だったから、ただお湯を入れて捨てるなんて焼きそばじゃないから」
と言った。訴えかけられる様に言われた。
以外にこだわるのな葉山。でも、多分、きっと、恐らくは問題はそこじゃないと思うんだ。
なんらろう、僕らが、というか、僕がここまで持って来た悲壮な想いとか、断固たる決断とか、そいうのが、壊されるっていうか、無いことにされてるのか、圧倒的な流量で押し流される感じで、気持ちが折られてしまうと言うより、綺麗に畳まれもしくは丸められてしまっている感じ。
もう、これは笑うしかない。
で、再確認できた。
そうだった。
僕を含めてダンジョンウォーカーってこう言う人種だ。
北海道ダンジョンだもんな。
気楽では無い。でも、薄まる。
「さ、主人公達の会場入りだべ」
真希さんに背を押されて、僕らは『決戦』の地へと赴いて行った。