第240話【母さんからのお願い、出撃する僕ら】
僕は葉山を助けるって事を母さんは信じている。
だから、今日終わる葉山の明日を信じて疑わない。
母さんの言葉に、足りなかった何かを注がれて、ションボリとしていた僕の心によくわからない『母的』な物が満たされ張り出てきて、気持ちが前に向くようなそんな気分だ。
自分を信じるってさ、こうして外側から支えられる場合もあるんだなあ、ってちょっと驚いた。今の所、なんの根拠もないけど、いいや、母さんがそう思ってるなら、僕もそう思おうって、開き直れた。
でも、そんな僕の目に、母さんの手が、あの傷が見えてしまって、どうしようもなく暗い気持ちになる。
僕はそれ以上、僕の頭の上に載せられてる、母さんの手の傷を見たくなくて、その手を下ろそうとするんだけど、なんだ?、ビクともしない。
手によって視界的に隠されていつ母さんから異様な気配を感じる。
迫力と言うか、これは僕が母さんに感じた事が無い気配みたいなものかな、断固たる決意、そんな意識が僕に伝わってくる。
「ダメよ、これは私の『勲章』なんだから」
と言う。いつもの声で、いつもの感じで、そう言うんだ。
そして、
「もしもね、静流ちゃんを倒してしまいそうになって、止められないって思ったら、母さんのこの傷を思い出しなさい」
と言った。
一体なんの話だよ、って思う僕なんてまるで放置で、ニコニコして母さんは、
「じゃあ、行ってらっしゃい」
そう言って、僕を見送っってくれた。
結局、また母さんに気持ちを整えられた気がする、なんか釈然としない。色々考えてしまう。
……今はいいや、僕それどころじゃないし。
玄関を出ると、葉山が待っていて、
「じゃあ、行こうか」
と言って歩き出すんだけど、その葉山がさ、
「昨日の石狩鍋美味しかった」
って言うんだよ。
そして、
「お母さんて、あんな感じなのね、私、生まれてすぐにお父さんと2人きりだったから」
って言う。
ううん、違うよ、だいぶ違う、普通のお母さんってあんな感じじゃないから、それは違う。
僕も、薫子さんとか、蒼さんとか一緒に生活をし出してなんとなく気がつき始めたんだけど、世間一般のお母さんんとは大分違うらしいよ、あれ、参考してはダメな奴だからね。
そう言おうと思うったけど、隣でニコニコしている葉山を見てると言いにくくてさ、まあ、いいや、今は黙っておこうって思ったんだ。
2人して並んで歩いているとさ、学校に行くみたいな感じて道を間違えそうだな、とか思っていると、僕らの前に一台の車が止まる。
「おう、少年、乗ってけよ」
と、なんで、ここにこの人がいるんだ? ってビックリした。あの冴木さんの彼氏の拓海さんだよ。
でも、この人がここにいるって事は察してしまう。
多分、僕らを安全に、7丁目ゲートに送って行くためにここに来てくれたんだ。
だから、多分、こうして歩いている今も、僕らは安全じゃないって事なのかな?
「誰?」
って思いっきり怪しいな、って感じで疑いながら僕の背に入って葉山は言う。
大丈夫、悪い人じゃないよ、でも全面的にいい人って訳でもないけど、冴木さん関連から、この人個人じゃなくてそれを取り巻く全体的にはフワッと信用はできるから。
「多月の婆さんに頼まれてな、俺と一緒だと奴らも手が出せないから安全に行けるぞ」
と言ってから、
「乗らないのら、4回程度の戦闘は覚悟した方がいいな」
なんて言うから、素直に車に乗った。
そうか、蒼さんが手を回してくれたんだな。
お陰でスッと目的地である7丁目ゲートまで行けた。
葉山は混乱していたみたいだけど、「何? 真壁って防衛庁にも顔が利くの? すごいね、いつの間に?」とか言ってるけど、違うから、多分、蒼さん関連だから、お婆ちゃんとかだから、だから顔が効くってあながち間違いでもないけど、特に僕が頼んだ訳でもないからね。その辺は否定しておいた。
拓海さんの後輩を名乗り人が助手席から、
「大丈夫かい、コーヒーとかあるよ」
とか言って缶コーヒーを2本渡してくれたけど、何と無く飲む気にはなれなくて、遠慮していると、
「なんだよ、中坊に胡麻すりか?」
「将来的に僕らの上司になるかもしれないですからね、今の内に良い印象を与えておくのは大事ですよ」
とか言い出す。拓海さんも「ああ、そうか」とか言ってる。
大通り公園に着くと、そのまま7丁目ゲートの前に、
「やっぱ来てるな、大柴の人達」
拓海さんは呟く。助手席からは、
「強行突破しますか?」
「いや、良い、多分大丈夫だ」
と言って僕を見て、
「じゃあ少年、後、葉山さん、話はつけてある、これ終わったら、また札雷館にこいよな」
と言って車を下された。
そのまま、拓海さんの車は走り去り、僕らは、ゲート前に隣接する道路においていかれた。
で、まあ、7丁目ゲートに向かおうっておもうんだけど、どうしても、ただでは通してくれそうもない、剣の事ではお世話になりっぱなしの、雪華さんのお母さん、ジッと僕らを見つめていたよ。