表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
492/1335

第239話【身体中の傷、そこにある命】

 僕の指先に触れるのは、彼女目的の場所に導くまでに、幾つもの施術の後であろう傷跡に触れた。そして到達したのは、胸の中心にある一番大きな傷の跡、そしてその皮下にある何か硬いプレート状の物。


 「わかる?」


 もう、頷くしかないよね。


 「これがね、私達を有機的に繋いでいる部品なんだ、ちょっと心臓からずれているから、ちゃんと覚えてね」


 そう言って、彼女は微笑む。


 「ここを破壊されると、私達は直ぐに行動不能になって、間も無く生命活動を停止するから、もし、私達に近づけるならここを狙ってね」


 その言い方は、「ここテストに出るよ」くらいの気楽な言い方で、自分の命を支える場所の説明をする。


 「ごめんね、欲が出てしまったの、死ぬのは同じでも、私は、最後は真壁に殺されたいのよ」


 僕は、何かを言おうとして体を起こそうとする、でも葉山は僕の、自分のシャツの中に入れた僕の手を、そのシャツの上からギュッと握って、強く目を瞑って言うんだ。


 「だって、私のために泣いてくれる男の子だよ、その子が私を終わらせてくれるなんて、本当に、今まで頑張って生きて来てよかった、だからお願い、このままの気持ちで終わらせて欲しいの」


 葉山の思いに僕は答える事ができるだろうか?


 この子の願いは自分を殺してもらう事。


 そして、それを他の誰でもない僕が行う事。


 僕はそれをどうやって成し遂げようか、ではなくて、本当にそれが出来るかの方と考えてしまっている。


 「お願い」


 僕の迷いを押してどかしてしまうように葉山は強く、強く言った。


 「わかった」


 もうそれしか言えなかった。


 葉山は僕の手を話して、僕のベットの上からそっと降りて、


 「じゃあ、明日、私も寝るね」


 と言って部屋を出るときに、


 「大丈夫だって、ちょっと胸を触ってもらっただけだよ」


 「私は別に心配など…」


 と、扉の外にいて、こちらを心配そうに見ている薫子さんと話していた。そうか、ずっとそこにいて様子を見ていてくれたんだ。ということは、


 天井に目を走らせると、その隅の方には蒼さんが、こちらをジッと心配そうに見ている。 なんだ、みんないたんだ、よかったよ自重して置いて、本当によかった。


 ともかく明日。


 僕はその日、いまだに葉山との決戦に向けての秘策とかもある訳もなく、それでも、その日はぐっすりと眠れた。


 変な夢もあれから見なかったし、割とぐっすりと寝れたので体調も良く朝も起きられた。 


 朝ごはんも普通にみんなで食べて、支度して、葉山と一緒に家を出ようとして時には、母さんが玄関まで見送りに来てくれた。


 薫子さんはギルドの仕事でかなり早朝からいなかった。どう言う訳か妹もマモンちゃんが迎えに来たとかで出かけていて既に家にはいなかった。蒼さんは多分、その辺にいるとは思うけど、そんなわけで見送りは母さんだけだった。


 「じゃあ、しっかりね、2人とも」


 とか言う。これから斬り合って、殺し合いをする2人にかけるような言葉しゃないよね。 


 でも、葉山は、


 「はい、行ってきます」


 と晴れやかな挨拶をする。なんかもう吹っ切りれたみたいな顔してた。


 するとかあさんは、


 「またご飯を食べにいらっしゃいな」


 と言ってから、ちょっと一呼吸置いて、


 「そうだ、後、一部屋余ってるから、いっそ住んだら、静流ちゃん」


 とか言い出してした。流石にこれには葉山も返事を困らせていた。


 彼女の決意を聞いていた僕には、母さんの言っている事ってとても残酷だと思う。だからちょっとイラっとして母さんを見てしまう。あんまり葉山は気にしていないみたいだけど。


 先に玄関を出る葉山を追うように僕も出ようとすると、


 「あ、ちょっと待ちなさい」


 そうかあさんに呼び止められる。


 「なにさ?」


 と振り向いた瞬間に、母さんは僕の頭に手をのせる。


 さっきからこっちの空気も読まずに、まるで見当違いな事を言っている母さんに何か一言言ってやろうかな、って思って口を開く前に、


 「静流ちゃんを頼んだわよ」


 とか先に言われてしまう。


 ちょっとビックリししている僕に、母さんは言うんだ。


 「なんて顔してるの? 静流ちゃんを助けるんでしょ?」


 ああ、そうか。そうだったんだ。


 僕は気がつくんだ、自分のしようとしている事、しなきゃいけないって決めている事。


 そして、それを実行できるか? そればかり考えていて、方法も思いつかないくて、見当もつかなくて、だから自信が無くて、ちょっと考えるのも嫌になってる。


 つまりはさ、今の時点では自分を信じてなんていない。できるなんて思ってないんだ。


 そんな僕の言った事を、静流さんを助けるって、その事を母さんは僕の言葉通りに信じているんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ