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第238話【ねぇ、胸をね、触って真壁…】


 「簡単な回復なら可能だけど、幾つもの命で作られた私の体は、蘇生に矛盾を生じさせるの、このダンジョンに複数を同時に蘇生できる魔法ってないから、何か欠けても生きていけない私は蘇らない」


 そうきっぱりと言いきる。


 「試したことがるの?」


 自分でもおかしな事を訪ねてしまう。


 「あるわけないでしょ、あったら私は今ここにいないでしょ」


 と普通にばかな質問を叱られてしまう。ああ、なんかいつもの葉山だ。こんな状態で、こんな状況で安心している僕がいる。


 「でね、先に教えておこうと思って、でも真壁寝てたから、起こすのも可哀想だなあ、って思ったんだけど、シクシク泣き始めたから、嫌な夢でも見ているんだと思って、ちょっと揺すって見たのよ」


 本当に恥ずかしい、葉山に僕、寝てたとはいえ二度泣き顔を見られているよ。


 「忘れてよ」


 「嫌だよ」


 珍しく葉山なのに人の嫌がることするなあ、ちょっと言い返してやれ、って思ったら、葉山は横を向いて、顔を紅潮させながら、


 「だって、真壁は私の為に泣いてるんだから、そんなの忘れる事できないよ」


 と言った。


 キッチリと保存されている感じだ。


 「もしもね、私が負けて、負けなくても、動けなくなったら、真壁にトドメを刺して欲しいんだ」


 「嫌だよ」


 「お願い」


 「だって、ダンジョンの中では生きていけるんでしょ?」


 そう言うと、葉山は寂しそうに笑って、


 「それがそうでもないんだ」


 と言った。


 「どう言う事さ?」


 葉山は言う。


 「心臓がね、もうそろそろ限界みたいなの」


 言葉が出なかった。


 僕のそんな態度に、


 「そんな顔しないでよ、ここまで生きてこれたのも私にしたらラッキーな事なんだよ、ほら、言ったじゃん、生まれて直ぐに死んじゃうって」


 それを言われると、僕はもう黙るしかなくて、


 「だからさ、真壁と派手に戦って、それでお終い、全部終わりにしようと思うの」


 凄いなと思うのは、こんな事実を葉山は淡々と語れる事だ。今まで僕は全く知らなかった、この同級生の内面は、いつも『死』と言うものを側に置いて、それがいつ自分の身に起こっても当たり前の事実として受け止めているんだ。そう言う覚悟って並みの人間ができるものではない。


 「それでさ、今度の戦う場所って、真壁にとって物凄い不利な場所になるの、さっきも言ったよね、私たちの為に(あつら)えた様な場所だって」


 頷こうとするんだけど、顔が近すぎて頷けない。うん、て言おうにも、今にも唇が重なりそうで声も出せない僕ができるのは、目で訴えることくらいだった。


 「だからね、フェアじゃないから、私の弱点というか、一撃で倒せる場所を教えておこうと思って来たのよ」


 そういって、葉山は自分の着ているTシャツの中に手を突っ込んで、背中の方でなんかやってる。ゴソゴソしてる。


 「ちょっと待ってね、今、ブラ外すから」


 と言った。


 え? 今なんて言った?


 うわ、本当に、この子、服の中からブラ抜いたよ、今、この子、ノーブラだよ。


 うあああああああああああああ!!!!!!!


 生まれて初めてのこの素敵、じゃなかった、こんな状況に僕は大変なパニックに落ちてしまいそうになるけど、葉山は至って冷静に、


 「ちょっと、真壁、右手貸して」


 と僕の右手を布団から出して、事もあろうに自分のTシャツの中に入れる。


 少し顔が離れたから、


 「何してんだよ!」


 って叫んだら、


 「あ、ちょっと、動かさないでよ、変な所…、まあいいけど」


 彼女の手に導かれたのは、彼女の胸の中心。そこに強う手を当てられる。


 「ちゃんと触って、指、伸ばして、そっと、そうそう、乱暴にしたらわからないから、優しくね」


 僕の手は、その場所で何かに触れた。葉山の胸の中心。ちょっと傷?みたいなものの上のあたり、そこに導かれる間にも、葉山の体って、手術の後って感じの、凹みとか、ちょっと隆起してる傷後ってのがたくさんあて、ちょっと指先に触れるのもためらわれたんだ。そんなことを考えると、いままで葉山がの扱われかたというか、その経緯を考えると、ちょっと気持ちが沈んでゆく僕だよ。


 だから、一瞬、葉山が見つめる僕への視線を躱してしまいそうになる。


 なるけどさ、葉山の瞳はジッと僕を見るんだ。


 僕を見つめる葉山の目は、本当に真剣そのもので、この事態に恥ずかしがってる僕は、ちょっとだけ冷静になれたよ。


 彼女が何をいいたくて、どうしてここに来て、こんな真似をしてるのかって今のこの状態だって、彼女は真剣そのものなんだ。


 きっと人生だってかけてるくらいの覚悟だってあるんだ。


 僕はただ、黙って彼女の言葉に耳を傾けていた。


 きっと、それしかできないからね。


 真摯に彼女の気持ちを受け止めようって、そう思ったよ。

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