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第238話【明日への余韻】

 眠れるかなあ、なんて思いながらベッドに入って、気がついたら熟睡していた。


 その時に、多分、睡眠が浅くなった部分で、起きてるかなあ、くらいの狭間で僕は妙な夢を見た。


 夢なんだろうけど、リアルでどこかおかしな夢。


 夢ってわかってはいるけど、ありえなくて、納得できる、そんな夢。


 僕はみんなと鍋をつついていたんだけど、だからついさっきの時の事だよ。


 追体験かな?って思っていたんだけど、ご飯を食べているメンバーはさっきと同じだと思うんだけど、葉山のさ、隣に茉薙がいた。


 へー、茉薙ってこんな顔してるんだ、って思って、ここでも、ああ夢だなって気がついて、その反対側にも隣に誰かいたんだ。


 どこかで見た事がある顔だな、って思うけどいや初対面だな、とも思って、いいや、この顔に似た人を知っているんだ、僕。


 うん、よく似ている人を僕は知っている。


 だって、当たり前だもん、顔が似てしまうのは。


 でも、その人はそこにいない筈なんだ。


 茉薙はいてもいいけど、その人はダメな気がする。だって僕はその人に一度も遭った事ないからさ、知っているはずがないんだ。


 だから、その人がとても違和感があってさ、けど、みんなと一緒に笑ってるんだ。その人。


 夢の中の僕も一緒に笑うんだけどさ、そのおじさん、僕が笑ってると、ずっと僕を見つめて、何かを言うんだよ。聞こえないけど、とても優しい顔して、何かを言ってる。


 何を言ってるの?って僕がそのおじさんに意識を向けると、ただ笑うんだ。黙ってしまって笑う。


 その顔がさ、凄い良い笑顔なんだけど、どうしてか僕は悲しくて悲しくて、僕はその人になんか言ってた、多分言葉の内容は、『なんで?』とか『どうして?』みたいな事だと思う。 


 すると、そのおじさんは、何か僕にお願いするように手を合わせたり、頭を下げたりする。顔がさ、笑顔なんだけどとても必死なんだ。


 ああ、そうか、誤解なんだなあ、って思って、じゃあ自分で言えば良いのにって思うだけど、おじさんは、葉山の方を悲しそうな目をして、ただ黙っている。


 そうか葉山は気がついていないんだ。


 そのおじさんとこんなに近い距離にいるのに。


 葉山は全く気がついていないで、隣の茉薙とばかり話している。


 でも、おじさんは本当に良い笑顔で葉山を見つめている。なんかどこかでホッとしているみたいで、安心したって顔して、見つめていている。


 その感情がさ、僕の中に流れ込んで来る。


 言葉にならないくらいの喜びなのかな、感謝? みたいな感情。


 そして、一つのはっきりと形になった思念。


 『ここにたどり着いてよかった』


 それが、唯一の言葉じゃ無いけど、言葉に近いそのおじさんが抱いている感情。


 よかったねえ、って思う僕は、とても悲しくて、そのおじさんに何かを言った。


 なんて言ったんだろう。


 最後にそのおじさんが言うのはそのお礼みたいな言葉。


 うん、わかったよ。


 でも、悲しかった。

 





 「どうして泣いてるの?」


 葉山が言う。


 ああ、夢の続きかな?


 ってそう思った。


 だって、ここ僕の部屋で、僕のベットで、葉山なんている筈がないからさ、論理的にありえないね、って思った。どんな論理かわからないけど。


 それに顔が近い。


 そして体が動かない。


 ん?


 そろそろ変だなって僕は思い始めた。


 ああ、ここ僕の部屋で、今僕は眠りから覚めて、そして僕が寝るベットの上に、正確に言うなら僕が寝ている上に、葉山が乗っかっているって形だ。


 布団をかぶった僕の上に四つん這いの格好で葉山が乗っかっているから掛け布団に押さえつけられて僕の体が動かないんだ。そうか、そう言う事か、ってどう言う事?


 え? まさかと思うけど、『暗殺』とかの類じゃないよね?


 早々に僕の寝込みを襲うとか?


 なんだ、これ?


 「ごめん、なんか眠れなくて」


 そう葉山は言うんだ、もう息が掛かるくらいの近い距離で、葉山は僕の顔に自分の顔を近づけてそう言ったんだ。


 「真壁ってお母さん似だね、目とか、鼻とか口元もそっくりだね」


 まあ、男の子って母親に似るって言うしね、逆に娘って父親に似るって言うよね。


 それはともかく、


 「何してるの?」


 もう、そう聞くしかない僕だよ。この状況を説明して欲しい。


 「顔を見てたの」


 それはわかるけど、


 「私、真壁の顔をもっとよく見たくなって…」


 おでこがくっ付いた。


 あ、僕、ちゃんと歯を磨いたっけ? なんて言うどうでもいいことが気になってしまう。それはこの後に及んで僕は葉山にまだ嫌われたくないんだって事を知る。


 「起きたからちょうどいいや、真壁にお願いしておくね」


 近すぎる葉山の顔は、あの夢の中で見たのと同じ笑顔で言う。


 悲しくても人に向けられる類の顔だ。そんな顔をして、


 「もしも、真壁が勝ったら、私を終わらせて欲しいの」


 意味は理解できる、と言うか察する事もできる、でも僕は聞いた。


 「どう言う意味さ?」


 「私を殺して欲しいの」


 言葉が出ない。


 しばらく僕らは見つめ合う。


 目は本当の事を言うから、彼女の言葉に嘘や誤魔化し、偽りはない。


 でも、


 「ダンジョンでは人は死なないよ」


 と言うと、


 「私は蘇生できないわ」


 と葉山は言った。



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