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第235話【母さんの一撃】

 葉山なんて本当に驚いた顔をしていた。だってそうだうよね、この母は、多分薫子さんあたりか聞いていたのだろう、一応の事情というか、内容を知った上で、つまりは葉山の希望である僕を殺すっていう目的を知りながら、普通に僕の友人として家に上げて、一緒にご飯食べて、こうして食後の会話を交わしていたんだよ。


 顔色一つ変えもせずに、まるで、『今日は何してたの?』くらいの軽い言い方でそんな事を聞くものだから、違う意味でお茶の間は違う空気に入れ替わって、凍てつく氷をぶち壊す。というかただ、悲しいとか可愛そうとかの空気がここで確実に変わったんだ。


 母さんのいうことって、「そう、じゃあ、あなたはどうするの?」って言う言い方だったんだ。


 本当にこれにはみんな驚いた。


 だから、葉山の思いや、過去、そして持っていた悲しみ、だけじゃないよな、そういった複雑で絡み合い答えなんてとても求められない気持ちが、そのまま前に進む。


 葉山は笑って言うんだよ、


 「他人事みたいに言わないでください、私は、『あなた』を目的に作られたんですよ」


 その言葉に、僕ではなくて、薫子さんが驚いて、椅子から立ち上がって、


 「それは一体どう言う事だ」


 って聞く。もう、薫子さん、母さん大好きだからね、この葉山さんの一連の話の中にお母さんの存在がある事に驚いて、そして不安を感じて、ちょっと憤ってって、割と複雑な心境みたい。先を越させた息子の僕はなんか他人事みたいになってる。ちょっと乗りおくれた。


 でも母は言う。


 「それにしては違うわね、私、スキルなんて持ってないわよ」


 ああ、母さんノービスだった。戦闘に関するスキルは持ってない筈。


 「はい、でも、マテリアルソードを持つ人間として、Sword Worldのシステムが、あなたの為だけに作られた様に、私はこのシステムをさらに強力に運用できる様にスキルのキメラ化されたと聞いています」


 不謹慎だけど、お茶吹き出しそうになった。


 その僕を見て、葉山が驚いて、


 「まさか知らなかったの?」


 うんって言いたかったけど、無理、お茶が気管に入ってちょっと困った事になってる。


 ゲホゲホ言ってる僕に、妹が後ろにやって来て、背に触れて『イジェクト』って言うと、僕の喉のあたりで暴れるお茶が湯のみに戻った。


 ありがとう妹、もうこのお茶飲めないや、でも便利だな、イジェクト。こんなに生活の中に役に立つなんて思わなかったよ。なんとか人心地ついたんで、


 「うん、聞いてない」


 「言ってないわ」


 ほぼ同時に母さんと僕。


 「なんでさ?」


 ってこれは僕。


 「だって、聞かなかったから」


 と母さん。


 「師匠…」


 これは薫子さん。


 もう薫子さんも、びっくりしていると言うか呆れている。


 まあ、いい。いいよ、かあさんはこんな人だ。


 そんな母さんは言った。


 「そう、それで合点がいったわ、だってそうよね、北海道ダンジョンにはこの子よりも強い人はまだいるから、ほら、あいつとかね、それに深階層に行けば、条件にもよるけど、まだいるんじゃ無いかしら、だから、まだこの程度のこの子に拘るのっておかしいなあ、って」


 そう言う言い方をする。


 あ、この会話を聞き入っている蒼さんが、隠れるのも忘れて、天井に張り付いたままこちらをガン見してる。まあ心境はわかるよ。そして、「お行儀悪いわよ、蒼ちゃん」と母さんに叱られ、オズオズと普通に床の上に降りてくる。


 「結局はその剣繋がりなのね」


 と母さんは言った。


 「今の時点なら、まだ、スキル全開の本気出した春夏ちゃんの方が強いわよね」


 と母さんは僕に言った。


 春夏さんと強さとか比べたこともないけど、そうなんだ。


 「そうなんですか、まだ、道半ばだったんですね」


 ちょっとガッカリしたみたいに葉山は言った。


 なんか中途半端に強くてごめんな、葉山、って思った。


 「でも、まだ真壁は強くなりますよね?、その途中経過でこれだけ強いんですから」


 本当に、普通に自分の母親に対して相当に信用の無い息子が同級生にフォローされているみたいで、さっきの重い雰囲気とは打って変わってなんか笑える。


 と言うか会話が母さんのペースになってから、事実なんて何も変わらないのに、葉山の背負っていた重荷すら下ろしてしまったくらいの感じになる。


 快活に話す、というか今にも母さんに食ってかかりそうな勢いの葉山に、母さんは、どこか嬉しそうなんだ。


 その笑顔を見て、なんか、かなわないなあ……、って思う僕だったよ。

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