第233話【スキル部位の移植検体として……】
このスキルの移植って研究は、北海道ダンジョンが現れてから、僕らのような子供達にスキルが現れてからずっと続けられていたらしい。
この研究をする人から言わせると、ダンジョンの医療的な平和利用だそうだ。
何より、すごいというか恐ろしいのは、スキルを発現した部位の移植って、その検体同士で拒絶反応が出ない。
普通、たとえ親から子へ兄弟同士ですら、臓器の移植には拒絶反応が出るらしいんだけど、スキルを発現した部位の移植は、近親者どころか、血液型すら度外視でかまわないらしい。
葉山の場合、最初から戦闘向きでもないけど、空間把握とか、範囲予測視覚みたいなスキルは生まれたときから発現していて、その後、育たない筋肉組織を補うために、生まれて同時に死亡した嬰児の組織を移植した。
それが、あのとき相馬さんが言っていた意識の無い別の命、もうこれは生命的には葉山に結合されていて、もし仮に移植されなくてもこの2名は破棄される予定だったから、多分、そのスキルの部位は意識があるってことはないんだけど、それでも、簡単な意識を最初の段階では示していたって話だ。
体の部位が意識を持つって言うのもおかしな話だけど、問題はこの2人ではなくて、あの茉薙。彼女が弟のように思うこの少年は、確実に意識を持って、性格を違えて、まるで1人の体に2人が存在するかのように葉山静流の中に宿っているスキルを持った部位。
それは今の彼女の内臓のほとんどで、それを司るために、脳の一部も移植されていると言う話だ。
彼が最初から持っていたスキルは、簡単物を手を触れずに動かす、程度のもので、あの時に見せた『剣世』のスキルって、葉山に移植された茉薙を含む複数の部位がそれぞれに影響して、あのような強力になスキルな発現に至ったと言うことらしい。
そしてそれこそが葉山のお父さんの研究で、人工的にスキルを作り出す、という事に、一応の成功を収めたらしいんだ。
だから、この研究が進めば、スキルって、武器や防具と同じようにお金で買えるみたいになるのだろうか?
それは、まるで普通の世界に例えるなら、『才能』をお金で買うみたいな話で、僕のような人間にとって、それがいい事なのか悪い事なのか、今一つピンと来ない。
でも、ここに至る経緯を知ると、流石にゾッとするけどね。
でも、その人工に発現されたスキル能力って、それなりのリスクもあるらしい。
その状態を維持するためにはある大量の投薬が必要で、その投薬の内容は、葉山がいうにはその効果は人工的にダンジョンにいる環境を作るって事らしい。
つまりは、ダンジョン、特に効果的なのは深階層にずっと入っていると、薬が必要では無くなるって話なんだ。
ダンジョンに入っている間は、葉山の体にはなんの不具合も出ないで普通に過ごしていけるらしい。
いったいどんな理由で、そして、どんな効果でその様な事態になっているかって皆目見当がつかないし、研究者は年齢的にダンジョンに入れないから、あくまで推測の域を出ないけど、どうやら、北海道ダンジョンて、『人をよりよい形で生かそう』とする作用があるのではないかって葉山は言うんだよ。
それは自分が、こんな体をしているからわかるんだって。
ありもしない部位の切れ目や、ほかの体から持って来た部位だって意識できるんだそうだ。
じゃあ、ずっとダンジョンに入っている方法とか無かったのかな?、って酷い言い方だけどそう思う。
すると葉山は、
「いやだ、それじゃ真壁に会えないじゃん」
とか呑気なことを言い出す。