第230話【世界で一番安全な場所へ】
催涙ガスだっけ、特に涙も出ないし、催眠ガスなら眠くもならない。
なんだ、失敗作品、不良品かな?
って思っていると、
「僕がいるところで、秋様に『状態異常』は起きません、99年早いです」
いや、そこは100年だろ、って突っ込みかかっかったけど、本当にびっくりしていたから、どこから、じゃなくて、「いつから?」って聞いたちゃったよ。
「僕はいつでも秋様の傍にいますよ」
と言ってから、
「秋様の友人を思う純粋で美しい涙が僕を呼び起こしたのです」
どこの召喚条件不明な神獣だよ。僕は村の乙女かよ、僕の涙にそんな付帯効果とか付けないで、それとお願い、止めて、ついさっきの事だけど、同級生女子に泣き顔みられるなんて、もうすでにここ最近での最大の黒歴史だから。
そのまま、ズモモモって僕の影から出たな、ちびっ子ネクロマンサー。
今日は漆黒の黒のローブでいつもの蛇の杖。
そして、桃井くんは言う。
「今回の、葉山静流、茉薙の件は、秋様の正当な乗り越えるべき『障害』として認定されました、おばさんは引っ込んでいてください」
「でも、私たちは」
と雪華さんのお母さんが何かを言いかけるんだけど、
「あなたたちになんとかできるなら、北海道にダンジョンなんてできてませんよ」
その一言は、ピシャリと雪華さんのお母さんを黙らせてしまう。
「本当に人って、『欲』が絡むとめんどくさい動きをしますね」
と桃井くんは言った。
「ともかく、ここからは秋様とこの葉山静流様の、ダンジョンウォーカー同士の問題です、部外者は、どうかお引き取りを」
でも、それでも、彼女は言う。
「これは、もう、個人がどうこう出来る問題じゃあないのよ、もう国だって動いているわ、この辺りの地域は封鎖してます、逃げられないわ」
その時だった、雪華さんのお母さんのスマホが鳴る。そしてそのままスピーカー通話で、
「何?」
イラついた表情を隠しもしない問いに、スマホからは、大きな衝撃音と共に、
「2個小隊壊滅しました、封鎖線維持できません」
と悲痛とも言える声が入って来る。
「何が起こっているの?」
こちらから尋ねる雪華さんのお母さんの声に、
「わかりません、突然、2名のダンジョンウォーカーが現れて、『鎖鎌』の様な『槍』を振り回して、もう1名は緑の『魔法使い』が強力な魔法であたりを蹴散らしています」
その会話の中でどこかで聞いた声が、「アモン、まだ引っ掻き回すか?」「人間の、この種の介入は面白くありませんね、徹底的にやってください」その後、下品な笑い声が響いてきた。
なんでクソ野郎さんが?
茫然自失する雪華さんのお母さんを前に、
「さあ、僕達は、世界で1番安全な場所に向かうとしましょう」
と、桃井くんに言われて、そのまま葉山の手を引いて、僕はそのアパートを出ようとした。
その時、雪華さんのお母さんの声が響いたんだ。
「この子たちの目的って、真壁くん、あなたを『殺す』事なのよ!」
それは、忠告なのか、それとも気が済まないって感情なのか、ヤケクソになって言っているのか、わからないけど、いいよ。
そんなのとっくに知ってるから。
僕はあの時知ったんだよ、何もわからないくて、葉山の過去なんて全く知らないけど、いや少しは聞いたけど、それが本当に事実かどうかなんて正直、見当もつかないけど、あの時、彼女のぶつけて来た、僕に向かい合う殺意は本物だったから、それは分かる、理解もしている。
でも、それがどうしたっていうのさ? 僕はそれでも葉山を助けたいんだ。
僕らは一途に桃井くんの言う所の『世界一安全な場所』へ向かうことにした。
それにしても、その『世界で1番安全な場所』って普通に人が走っていける場所にあるんだな、意外だなあ、なんて、そんな事を考えていた。