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第44話【死が無いダンジョン】

 このダンジョンはね、人が死なないダンジョンなの。


 どんなにひどい死に方しても、たとえ、髪の毛一本になっても生き返る事ができる。


 しかも、ノーリスクでだ。


 それに、高位の魔法も、高価な薬もいらない。


 たとえ、行方不明な状態で息絶えても、ギルドが探してくれて、ギルドの保健室で完全復活させてくれる。


 だから、特にスキルを持つダンジョンウォーカー同士の抗争って、組織を巻き込んだ場合は戦争のような激しさになる事も珍しくない。互いを殺し合う抗争になるんだ。ルールの設定されない時なんて、本当に最後の一人になるまでその抗争が続くのも珍しくない。


 死なないから、安心して殺し合いができるんだよ。


 有名なところでは、黒の猟団、怒羅欣、あと、魔法スキル特化の組織とか、宗教団体なんかもあったはず。


 もっとも、みんな深階層の組織達で、仲にはダーク……なんとかとかいう、モンスターと競合するみたいな奇特な人たちもいるんだとか。


 それでもさ、ほとんどのダンジョンウォーカーは、ダンジョンで権力や抗争なんて関係ないところで活動してる。


 僕もその一人なんだよ。


 だから、僕はさ、基本的に、自分が死ぬのも自分が殺すのもまっぴらなんだよ。


 だって、ダンジョン楽しいじゃん。


 そんなところで殺し合いなんて、たとえ生き返れるからだって、かかわりたくないのが僕の本音なんだ。


 自分の意識や覚悟が、そして振るう剣が誰かを傷つけるなんて、ごめんだよ。


 僕はみんなと、ただダンジョンを楽しみたいんだ。


 って、嫌な、気持ちの悪い方へ意識が流れてく。


 気分は最悪だ。あの血まみれの手が、僕の脳裏に蘇る。


 その時、僕の意識に角田さんが、意識を重ねてこういうんだ。


 「お、嬢ちゃん、ピンチみたいですよ」


 って角田さんが言った。


 僕は春夏さんに意識を向けることで、落ちてゆきそうになる感情が、その心に光が差し込むみたいに明るくなった。


 そうだ、今は今の戦いに集中しないと、戦ってるのは春夏さんだけだけどね。


 でも、そこはしっかり支えなきゃだよ。


 それにしても、この数、この増え方、そしてウザい攻撃の仕方、本当に、そろそろ限界。春夏さんも遠くの方で「きゃあきゃあ」言ってるし、仕方ない、1回地下1階に引き返すのも止む無し、って判断をしようと思った瞬間だった。


 あれ? 春夏さん、止まってるぞ? あのかわいらしい悲鳴も出してない。


 この時、僕は知ったんだ。


 人間て、本当の恐怖を感じた時って、『無言』になるんだなあ、って。


 それは、今まで見た事のない春夏さんだった。


 さっきまで、ドラゴンフライを相手に、多少の悲鳴はあげていたものの、完全に立ち向かって戦っていた春夏さんが、そりゃあ、ものすごい速度で、こっちにやってきて、早駆け(亜音速)→僕に対しての最接近(回避不能)→身躱し(初段の攻撃無効)の春夏さんの持つクラスによるところのスキルをフルに使って、僕の背に隠れるように身を縮めている。あーびっくりした、気をぬいてたから何度か見失ったよ。


 統括すると、その接近速度は、これ以上の速度を求めるなら、瞬間移動くらいしかないんじゃないかなってって速度。思わず僕も、「え? どうしたの春夏さん?」


 と声もかけるけど、全く動かず僕の背にすっぽりと隠れてしまっている。


 「春夏のお嬢さんは、虫が苦手みたいですね」


 なんて意地悪く角田さんが言う言葉もまるで聞こえないように、春夏さんは自身は目も向けずに、自分が逃げて来た方向を指差して。


 「出た、アレ、出たの」


 って言葉少なげに言う。


 その訴える表情は深刻そのもので、鬼気迫るそんな必死さに、僕としては、「う、うん」って言うに止まる、どこに、何かとか尋ねることもしないで、ともかく彼女の訴えを受け止めなければって思ったんだ。


 一体、ここまで彼女を怯えさせる相手って?


 しがみつく春夏さんの指先から伝わる緊張感。


 僕はかたずを飲んで、その正体を見極めようとしたんだ。


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