第227話【かけ離れていた彼女の日常】
え? ここに葉山さん住んでるの?
正直、その建物を見たときは、この場所の雰囲気と、僕の知る葉山静流って人が全く整合しないっていうか、なんでこんな所にって、住んでいる人には悪いけどそんな風に思ってしまった。
でも、中央区の真ん中付近に父親のマンションがあるらしいけど、なんでわざわざこんな所に住んでるんだ?
湧き上がる疑問をそのままに、僕は今時引き戸って、思いながら、玄関に入って行く。
当然、管理人などもいなくて建物の中には簡単に入る事が出来た。
建物は古いけど結構大きくて、玄関を入ってすぐにある階段を上がると、長い廊下があって、その突き当たりの〈211〉室というのが葉山が住んでいる部屋だった。
一応、ノックしてみる。
無反応。
3回に分けてノックしたけど、全く反応がない。
ノブに手をかけてみると、意外なことに鍵などかかっていなかった。
僕は戸惑いながらも扉を開いてみる。
共用の廊下から見る室内は、今の時間、日当たりがいいみたいで、古いけど明るい
感じで、カーテンもかけられていない正面の窓から強い光が射していた。
6畳一間のたった一室、小さな水回りがあって、トイレもあるみたい。でも、正直、こんなところで生活していたのかって思いの方が強くて、驚いている僕なんだ。
「葉山、入るぞ」
今の時点では躊躇はしない。葉山の命がかかっている。一刻も早くこの薬を届けないと、言った気持ちが先に立つ。
僕は室内に入った。
居ないのかな?
見渡して見ると、玄関側の壁に背に足を抱えるように顔を膝の上に乗せて、葉山は座っていた。
いた、とか見つけた、って思う前に声が出た。
「葉山!」
反応が無い。
僕が突然入って来て、大きな声をあげて彼女を呼んでもまるで気づきもしない。
「葉山!!!」
もっと大きな声で呼ぶが、それでも反応が無い。
まさか!
この時、僕は最悪の事態を考えてしまって、彼女の前に崩れるように跪いて蹲る彼女の肩を持って、かなり激しく揺すってしまう。
「葉山、おい! 葉山!!!」
ピクリと彼女の体が反応する。よかった、生きてる。
重たそうに葉山は自分の頭を持ち上げて、顔を晒してトロンとした目で僕をジッと見つめる。
「辛いのか? 何やってるんだよ、こんなところで、しっかりしろよ、大丈夫? 勝手に入ってごめん ここで何してるんだよ? 鍵かかってなかったぞ!僕がわかるか?」
もう、僕の言う事も支離滅裂だ。と言うか思ったことが全部出てしまう。そんな風に取り乱す僕に彼女は言う。
「ああ、真壁君、ダンジョンお疲れ」
って、力なく笑って言った。
そして、
「薬がさ、急に値上がっちゃって、着払いでお願いしたんだけど、払うお金なくて、なんとか耐えられるかな、って思ったんだけど、1日でこんなになっちゃった」
って言う。その言葉を聞いた時、ああ、僕が葉山の仕事の邪魔しなかったらって思ったんだけど、流石にその為にシンメトリーさんの命を差し出すわけにもいかないから、でも、心情的には「ごめん」って言ってしまう。
すると、
「ダンジョンの中の事はダンジョンの中でだよ」
って力なく笑って言うんだ。
あ、そうだ。
「葉山、これ」
僕は紙袋を渡したんだ。




