第225話【抱えるほどの薬を持って】
普通に生きられる僕らが、普通に生きては行けない彼女の何を慮ると言うのだろう。
彼女は、葉山静流さん、それと、茉薙は今どんな心境なんだろう。
良く人は自分の身にその立場を置き換えて考える時があるけど、彼女達の場合、あまりにその事情が僕らの日常とはかけ離れているせいもあって、全くその気持ちというのが想い計ることなんてできないというか容易く理解したら失礼な気持ちにもなるんだ。
狭いユーティリティーで、3人、押し黙ってしまう。なんだろうね、これ。
でも、向き合わないとね。
僕が知らない葉山静流って人を知らないとダメだね。
その為にも会わないと。
「場所は特定しています」
と蒼さん。
「うん、助かるよ」
「途中までは案内できます」
「わかった、すぐに行くよ、準備するね」
僕は着替えに、部屋に戻る。そしてその部屋にある大きな紙袋を見る。
これが、葉山さんがお金を欲しがっていた理由。
多分、ネットの通販で非合法と合法のギリギリで手に入るけど、病院を介さないこの買い方だと海外のサイトに行ったり、余計な物まで買わされたり、相当に高価になるって話だ。
彼女の命を繋いでいる物。
中には痛みを抑えるもの、体の動きを円滑にするためのもの、そして眠るための物、さらには『正気を保つ為の物』なんて物もあるらしい。
文字通り、これ、彼女の命を繋いでいた薬なんだ。
これだけの量が過不足無く、全部必要なんだって。
雪華さんのお母さんの話によると、前の薬の購入からすると、そろそろストックが切れるくらいらしい。
この量で、約一月分だそうで、どのみち今日くらいから彼女の『動き』が酷く抑制されるらしい。
つまりは、薬が切れて葉山にとってはひどい事になるって事だ。
雪華さんのお母さんはこうも言っていた。
「タイムリミットまで間もないの、急がないと」
と……。
その言葉が何を意味しているのか、くだらないくらいに簡単な予想は付くけど、正直考えたくない。もう、そんな事を想像もしたくない。
ともかく、急がないと
蒼さん、この薬を手渡された昨日から、『秋の木の葉』の人達を動かして葉山さんの所在を調べていてくれて、一応、学校には彼女の父親と一緒に住んでいると届けられているマンションには、彼女の父親で登記されているものの、そこに人の生活している感じはなく、随分前から空き家になっていたらしい。もしかしたら最初からかもしれないって、蒼さんは言っていた。
だから、夜を徹して『秋の木の葉』の人たちは、様々な手を尽くして彼女の足跡を追って漸く、僕が起きるちょっと前にその場所、そして彼女の存在、葉山静流状態での所在を確認したらしい。現在、彼女は動く気配は無いって話。
僕も探しに行きたかったけど、蒼さんから、「お屋形様はおやすみ下さい、この役目はお屋形様でなければできないことです、それ以外の雑務は我々が行います」って相当キツく言われてしまった。本当に、蒼さん達には感謝の言葉もない。
急がなきゃ。




