第218話【笑い合う僕ら】
鉾咲さん、僕のベッドのわきにいた此花さんを見て、
「やあ、君も大活躍だったんだってね、流石、あの『此花 椿』のお姉さんってところかな、面目躍如だ、深階層の強者の集い『D &D』の中の狂った魔法スキル集団『D &W』の1人だった事はあるね、僕も鼻が高いよ、今後も期待してるぜ」
あ、一瞬、此花さんの表情が変わった。これは僕でもわかる、この話題、きっと触れられたくないんだ。
そして、鉾咲さんは笑顔のまま、一瞬だけどその目がさ、刺すみたいな視線になって僕に言うんだ。
「それにしても、狂王様は底がしれないなあ、あの『茉薙』とやり合って、その程度の怪我で、しかも退けるなんて、いやいや、本当にかなわないよ、完敗だね、本当、もっと早く真剣に君を」
って言ってから、まるで自分の中に吹き出し来る本音をそのままに言う。
「もっと早く、どうにかしていれば良かった」
って普通の声だ、笑う声のテンションて、そんな風に言った。
この気配、そして声。ああ、これは僕みたいな鈍い人間でもわかる、隠す気の無い殺意にも近い害意。
あ、さっきまで頭を抱えていた蒼さん、僕の方に顔は向けているんだけど、鉾咲さんの
感情を察しているみたいで、どこに忍ばせていたのか、苦無かな、そんな刃物をギュッと握って警戒をしている。蒼さんの凄いところは、この状態で殺意というか相手に対する攻撃の気配を完全に消せるところだよね。
でもね、蒼さん、ここは戦うところじゃ無いんだ。
「いやあ、そんな事ないですよ、僕、ただのダンジョンウォーカーですもん」
って言うと、
「いやいや、謙遜謙遜、そこまで低いところから来られると、逆に嫌味だよ、狂王君」
「そんな事ないですよ、鉾咲さんもすごいスキル持っているじゃないですか」
僕の言葉に、本当に瞬きにも満たない時間、鉾咲さんの笑顔が消えた。
ジッと顔を見て話していなかったら見逃しているくらいの変化だった。
そして、いつも見せてくれる笑顔を貼り付けると、
「いやー、やだなあ、僕のスキルなんて君に比べれば全然たいした事ないよ、ハハ、、もう、冗談きついない、強い人の上からジョークって笑えないよ、威嚇になっちゃうよ、気をつけないとダメだよ」
警戒した。鉾咲さんは今僕に対してひどく警戒している。飄々としているのは相変わらずだけど、言葉を綴る速度が違うから、言葉を選んでいるなあ、ってのがすぐにわかる。これ以上の情報は漏洩させないぞ、って意識が働いているのがわかるんだ。
もちろん、僕が知っているのは、この鉾咲さんが『召喚箱』を作るスキルを持っているって事くらい。
他は全然知らない。だから正直に話しているんだけど、鉾咲さんみたいな人って、基本は人と会話すると時って本音というか、建前というか、そういうのを使って、駆引きするのが常套手段だからさ、きっと僕もそうしているって勘違いをしているんだと思う。
ほら、結局人間って、自分の思考を使って相手の思考を読もうとするからさ、結局は自分に振り回されているだけってことに気がつかない人は沢山いるよ。
特に焦っているとこの辺の判断を見誤ることが多いよね。
すると、鉾咲さん、
「もう、嫌だな、誰に聞いたか知らないけど、あれは、そう、そうだよ、冷蔵庫みたいなものだよ、うん、そう、安全な冷蔵庫、電源とかいらないんからさ、便利なもんだよ、ちょっと時間を止めるくらい、ただの箱さ」
新たな情報に、へー、って顔をする僕に、
しまった、った顔をする鉾咲さん。新情報ありがとう。