第217話【労いの鉾咲さん】
僕にしがみ付いて、一応はそれでも焦点の合わないボーっとした目で、僕を見ている。
そんな目が、徐々にいつもの利発さ追うな蒼さんの目に戻ってゆく、瞳に力が入ってゆく。
1、2、3…あ、本格的に目が覚めて、状況の把握に5秒くらいかかったみたい。表情が変わった。顔がわかりやすくパニクってる。
「お、お、お、おおおおお」
さらに分かりやすく取り乱して、一気に後ろに下がって、土下座みたいな姿勢になるんだけど、あわわ、になって、「では!」とか言って飛び上がるんだけど、保健室の天井って、他のダンジョンの各所ほど高くはなくて、そのまま天井に激突して、再びベッドの上に落ちてきて、多分、頭を打ったみたいで、両腕で頭を抱え込んで悶絶している。
なんだろう、ヘッポコな忍者を見ているみたいで笑えるんだけど、心配が先に立っちゃって、
「蒼さん大丈夫??」
って声をかけると、
「だ、大丈夫でゴザルよ」
ゴザルって…、語尾がおかしいよ、本当に大丈夫?
此花さんとか大笑いしてるし。「ほら、保健室は静かにしろ!」とかカズちゃんには叱られるわで、なんか居た堪れない。
「ごめんなさいでゴザル…」
って涙目になって蒼さんは真摯に反省したみたいに言うんだけど。いや、だからゴザルって…。
でも、まあ、良いや、蒼さんも無事だった。良かった。
そして、ちょっと遠くのベットからだろうか、
「生きてるか? 真壁?」
土岐の声がする。
「土岐も無事?」
見えないけど、こちらからも声をかけて見る。
土岐の周りには、クロスクロスの鎧を着た人たちがそのベットを囲っていて、ベッド時代の中身が見えないけど、どうやら土岐も無事らしい。
「俺は平気だ、最後どうなった?」
「なんとか退けた、みたいな形にはなったよ」
「すまんな、役に立たなくて、次は役に立つよ」
いや、花嫁さん、リリスさんを守る姿を見てるからね、総じて此花さんを守る姿を見ていたから、役立たずって事もないんだけど、これは多分、今の僕同様に、自分の力っていうか技量が対峙した敵に達していなかったって言う、所謂、悔しと言う思いだよね、僕の場合なそうでもないけど、土岐の言い方、本当に悔しそうだ。だから、僕も、「そんなことないよ」とか、「十分頑張っていたよ」なんて労いの言葉なんてかけないよ、僕もそうだから、だから、
「ほんと、すっかりやられたよね」
って言ったら、土岐は割と大きな声で笑ってた。
「確かにな」
って認めたところで、来ていたよ、多分、この事件の元凶というか事件は偶発的に起きたかもしれないけど、それを利用していた人が。
「いや、狂王様はキビしいなあ、こういう時は少しくらいは労いの言葉をかけてやるもんだよ、なあ蓮也」
鉾咲さんだった。
土岐のベットからこっちに来た。
ツカツカと、すらりと伸びた長身に、多分だけど、普通の顔していればそれなりの威厳とかある人なんだけど、本当に貼り付けたみたいな笑顔で、僕を見つめながらこっちにやって来る。
「いやいやいや、うちの騎士が役に立ってくれて何よりだよ」
大げさに両手を広げながら、もう、『welcome!!!』みたいな顔して僕のベットの横に座る。
「君の方も、怪我の方はいいのかい?」
一応は心配はしてくれているみたい。そしてそんな鉾咲さんは、僕のベッドのちょうど鉾咲さんとは反対方向にいた此花さんに声をかけたんだ。